第6話 情報屋
ヨハスが退室した後、ルイザは推薦状をじっくり見始めた。内容は基本的に良いことしか記載されていない。特にマリサの書類には良いことが沢山記載されていた。
(どうしても、ヨハスはこの5人、特にマリサをクレアトンに入れたいみたいね・・この流れだとファートン子爵もグルだったということかしら・・)
この推薦状が本当に子爵家が作ったものであるならば、マリサとヨハスだけではなくファートン子爵家も自分たちにとって敵であることが分かる。
(まずはこの推薦状に記載された旨が本当なのかどうかと、その背景について調べなくちゃいけないわ。今夜動こう。)
ルイザは今夜早速正しい情報を得るため、情報屋のもとへ行く手だてを立て始めた。
日も沈み、就寝時間になる。シイナが自室から退室した後、ルイザは変装用のマントを被り、窓から屋敷を抜け出した。
1番街の武器屋の強面の受付に合言葉「マスターピースのかけらは月の色」と伝えると受付は少しルイザに待つように伝え、一度席を外した後、ルイザを地下の部屋に案内した。
地下の部屋にはアンティーク小物などの調度品や絵画が並んでおり、その真ん中に来客対応用のソファとテーブルがある。奥には扉があり、どこかの部屋につながっているようだった。ルイザは案内された通りソファに座った。少し経つと奥の扉からマントを深くかぶった色付き眼鏡の男が出てきた。
「お待たせしました、あなた様は合言葉をご存じのようで。今日は何用でしょうか。」
その男はソファに腰を掛けるや否や本題に入り始めた。ルイザは一息ついた後、自身の正体を明かすため変装用のマントから顔を出した。
「久しぶりだね、情報屋の方は盛況みたいじゃない。カイラス。」
カイラスと呼ばれぎょっとした男はまじまじとルイザの顔を見て驚いた。
「わあ!驚いた!君が騎士をやめてからいつぶりかな!ルイザ!」
カイラスは色付き眼鏡をはずし、嬉しそうに話しだした。
カイラスとルイザは元々王家に勤めていた騎士であり、同期だった。騎士になりたての頃から王家を狙う暗殺部隊とやりあったこともしばしばあり、お互い命を懸けながら戦った友でもあった。
「そうね、結構経ったわね、あの時からだから・・約10年前?」
「俺、ルイザが領主になってから、騎士団にいた時に培った情報収集力を使って情報屋を始めたんだよ~。よく知ってたね~。知る人ぞ知るってやつなのに。」
「あなたがひそかに手紙で教えてくれたんじゃない。」
「あ、そうだった」
にこやかに今までの思い出話に花を咲かせる。しばしば会談をした後、カイラスは雰囲気を変え話しかけてきた。
「そこで、今日は情報屋である俺に何の用?」
ルイザは5枚の推薦状をカイラスに手渡した。
「これは、私の夫であるヨハスがメイドを5人追加しようと言って、持ってきたファートン子爵家からの推薦状。でも私はこの推薦状も、そしてファートン子爵家も怪しいと思っている。推薦状の裏にある情報を探ってきてほしい。またファートン子爵家の今の状況と怪しい部分を洗い出してきてほしい。」
カイラスは推薦状を流し見し、足を組みなおした後ルイザに向き合った。
「ふーん、君の夫は婿養子だったよね。そんなことを考える余裕も出てきたのか?まあいいよ。調べてあげる。今ある情報も含めて調査に入るから少なくとも5日間はかかるけどいいかな?」
「5日で調べ上げられるなら喜んで。お金も弾むわ。」
ジャラっと金貨を差し出す。
「ここには100万ティニあるわ。足りるかしら。」
「おお~太っ腹だね。サンキュー。情報を調べつくしたら合図を寄こすから待っててね。」
2人はぎゅっと契約締結の握手を交わした。
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