第3話【女神アストアリア】
天空の詠唱、セレスタリア。
その昔、女神アストアリアの加護を受け成立した、遥かな碧海に囲まれた美しい島国である。
先人たちは詠唱の女神を隣人とし、共にあることで魔法を行使していた。
しかし、年月とともに信仰は形を変え、今や形式化した“願い”のみが残る。
「今月のプロンプト、マジで最悪だった〜」
「俺も。女神いい加減にしてくれって感じ」
「いや、女神様とかいつの時代の話だよ」
「まあな。でも言いたくなるじゃん?雑魚プロンプトも、俺らがプロキオンだからかねぇ」
“プロキオン”
低層クラスに配布されるプロンプトは、物語に発展しづらいものが多いという。
地獄の沙汰も金次第。つまり、そういうことである。
国はその対策として、“プロンプト成果統計”――通称POSの配信を開始した。
POSとは、言い換えれば模範解答ランキングだ。
本来、物語の希少性は魔法がまだ存在すると証明する手段でもあるのである。__つまり、魔法保有とは国家の抑止力、他国に知らしめる防衛策でもあったのだ。
だが、現王ヴァリスティアは国民の“民意”を受け、質より量の“物語”を輸出する方向へ舵を切ったのだ。
『__今月のPOSを報告します。
政府は物語回収率前年比120%を記録。
1位は“落馬”で意識を失い、その結果異世界転生をする仮想体験でした。
皆様、実に多様な異世界を脳内体験してくださいました__』
「落馬のプロンプトなんて、どこの上流階級だよー!羨ましい!」
「待って、思いついた!自分から馬車にでも突っ込めばプロンプト拾えるんじゃね?」
「バカじゃん、それプロンプトじゃなきゃただの事故だぞ」
遺憾であるが、いや、関心が高まるのは良い。
だが__プロンプトへの関心の高まりは本来の意図を見失う。
プロンプトはただの”キッカケ”なのである。
だが、POSの配信や点数の簡略化により、物語ではなく、プロンプトの回収へと意図が変わっていくのである。
「プロンプトじゃなきゃ治療費出ないしな。」
「そうなん?知らなかった。」
プロンプトは政府発行である。
したがって、プロンプトがキッカケで失ったものや、負った怪我については国負担なのである。
「でもまぁ、やってみる価値はありそうだ。」
「プロンプトなら儲けもんだしなー。」
「骨折程度なら、まぁいいよな。自己負担なしで治せて、休めて最高じゃん。」
「自腹だったら、文字通りの骨折り損だろ。」
……そう。ここはセレスタリア。
物語に支配された王国である。
正式ヒロインは私! かふぇもか。 @kafemokanon
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