第二話 「面倒なことになった」

「こいつもメンテ出さないとあかんかなぁ」

ベットに座り、長年使い続けたギターを見て幹也は呟く。

幹也のギターはクラシックの形で年季の入ったものであった。

「さて今日も歌いますか」

彼には長年続けている趣味があった。それは弾き語りである。小学生から初めて、今では動画を投稿するまでに。もちろん顔を出してする勇気は幹也には無かったので、狐の仮面をかぶり隠している。

「ふぅ、、、」

暑く蒸れた仮面を外し顔は結露した窓のように汗でベッタリだ。

「さて風呂に入るか。ん?」

携帯に一通のメールが届いていた。

「あ、そういえば連絡先交換してたっけな」

メールを開くと『明日、絶対来てくださいね!』

と一行だけの飾り気のないメッセージ。

『わかったよ』とこちらも素朴な返信で返す。




「おはようさん幹也。なんかいいことでもあったんか?」

朝のホームルーム前の時間に声をかける青年。

「おはよう、明。いや、別にそないなことはないけどなぁ」

声の主の正体は幹也の友人、田中 あきらだった。

「いや、絶対何かあったやろ。俺の目は誤魔化されへんで。彼女でもできたか?」

幹也の言葉を疑い深くみているのか、信じない様子である明。

「、、、、、、い、いや彼女なんて、そんなんちゃうよ」

「なんやその間は、余計怪しいな」

「なんもないて、もうそろホームルームやし自分とこ戻れよ、ほら先生来たで」

別にやましい事はないのだが散策されるのは面倒なので明を上手いこと席に戻させようとする。

「ホームルーム始めるぞ、ん?田中。自分の席に着くように」

「後で聞くさかい、昼休み俺のところ来いよ!」

ボソッと幹也に捨て台詞を吐くように席に戻っていく。




「そんで何があったんや。嬉しそうな顔してなんかキモいわ」

学校の食堂で唐揚げ定食を頼んだ明は、リスのようにできるだけ口に詰めながら話す。

「キモいってなんや。てかまず口の中無くなってから話せよ。まぁええわ、実はな文化祭で最後やしギターでもやろうかなって思ってるんよ」

幹也は明とは対照的に焼き魚の定食で箸で上手く骨を抜きながら食べている。

「なるほどな、ついに見れるわけやなお前のギターを。やってるのは聞いてたから知ってたけど観た事はなかったさかい、これはひとつ楽しみができたちゅうわけや」

「箸で人をさすな、別に期待するほど上手くは無いと思うけどなぁ、、、」

「そんなことないですよ!!」

大きな声が割り込んで入る。

「うお!?誰やこの子!やっぱり彼女か!幹也!」

急に話の間に入ってくる彼女に対して椅子から転げ落ちそうになる明。

「違うって!はぁ、面倒なことになったな」

「何が面倒なんですか?私は面倒くさくないですよ?」

「この状況がめんどくさいんだよ」

ため息を着きながら頭を抱える幹也。

「めんどくさくなんてないです!幹也先輩が謙遜なんてしてるから、、、、、、」

少し落ち込む彼女。

「わかった、わかったから。何をそんなに落ち込んでるんかは知らんけど、赤松さんとりあえず誰かと一緒に食堂に来たんでしょ?その子待ってると思うから早く行ってあげんと。あとは放課後聞いてあげるさかい 」

向こうにそれらしき影があったので彼女を誘導する幹也。

「あ!?そうでした。待たせているのすっかり忘れてました!じゃあ話はまた放課後にでも!あ、来ないの話ですよ!」

てへっと愛嬌のある仕草をした後、向こうに行きながらも幹也に釘を刺すように指を指す彼女。

「わかったから前向け!前!」

またしても危なっかしいと思う幹也。

「おい、なんやあの子は、しかも年下やと!?ついにモテ期か?」

腕でうりうりとからかう明。

「こうなるからお前にだけは知られとうなかったんよ」

最悪だと思う幹也であった。

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君は俺の“一等星” アルタイル @Altair0614

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