第5話 第五章:楓の木に宿る永遠の旋律


 季節はめぐり、厳しい冬がやってきました。 寿命を終えたコオロギは、めんどりの翼の陰で静かに息を引き取りました。後を追うようにめんどりもまた、愛おしい友を抱くようにして深い眠りにつきました。


 二つの魂を見つめていた妖精は、大きなサラサラ流れる美しい川に宿る二人の女神、たちばな姫とくろき姫に祈りました。

「この二人が、次こそは同じ姿で、ずっと一緒にいられるようにしてあげてください」


その祈りが届き二人の女神は歌いました。

『美しい声、音となれ。緑の木の葉、赤くなれ。海へ流れて、種になれ。雨を降らせて、木に宿れ』


 妖精は自らの命である茶の葉を川に流し、その魔法と引き換えに、二人の魂を一本の楓の苗木へと託しました。


 長い、長い年月が流れました。 茶畑の丘に立つ大きな楓の木は、ある時、一人の名工の手によって切り出されました。

その木材は、美しい曲線を持つ一台のギターへと姿を変えました。


 妖精の魂は楽器の内部で音を支え、振動を伝える魂柱(たまばしら)」に。 コオロギの魂は、命を震わせて音を紡ぐ「弦(げん)」に。 めんどりの魂は、本体となって弦をしっかり支えています。


バイオリンが奏でられるとき、そこにはかつての鶏舎で交わしたあの「秘密の約束」が響きます。


朝の光を呼ぶ高らかな響きと、夕暮れを惜しむ切ない調べ。 かつて決して重なることのなかった二つの時間は、今、一つの音楽となって、永遠に溶け合っているのです。

今のあなたで、今のままで、十分に美しい。 そのメッセージを乗せたギターの音色は、今夜もどこかで、誰かの心を温めているかもしれません。

 

コオロギとめんどりの声は、夜明けと夕ぐれを告げ

いつもかわりばんこ

優しい二つの声が そこにはいつもありました。

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