第4話 第四章:これが幸せのかたち


 帰り道、コオロギの小さな体は限界を迎えていました。足は折れ、羽はボロボロになり、茂みの中で倒れ込んでしまいました。 再び夢に現れた妖精が言いました。「君の望みを叶えよう」


 コオロギは願いました。「空を飛び続けられる大きく立派な羽をください」 妖精が茶の葉をかざすと、コオロギの背中には白く美しいニワトリの羽が生えました。その羽で一気に空を舞い、彼はめんどりのもとへ帰り着きました。


「めんどりさん! 卵は、幸せだって言っていたよ! 合格して、誇らしいって笑っていたよ!」


 その言葉を聞いた瞬間、めんどりの瞳から一粒の涙がこぼれました。

「ありがとう。本当に、ありがとう。これで私も、毎日幸せな気持ちで眠れます」


コオロギは少し寂しそうに言いました。 「僕たちは似た者同士だね。羽があっても大空を自由に飛べない。めんどりさんも自由に空を飛んで回るスズメやツバメがうらやましいんじゃない?」 めんどりは眠りにつきそうになりながら、優しく答えました。


「コオロギさん、今を幸せと感じられたら、それが本当の幸せなのですよ。もし私たちが大空を飛んでいたら、こうして心を通わせる友達にはなれなかったでしょう? あなたの声は、世界で一番美しい。その声を夕暮れ時に聞いて、私たちは、あぁ明日も頑張ろうって安心して眠るの」


 コオロギは胸が熱くなり、眠るめんどりのそばで、一晩中誇らしげに鳴き続けました。


翌朝、妖精が現れ、めんどりは妖精に言いました。 「私の望みはコオロギさんが叶えてくれました。だから妖精さん、コオロギさんの『本当の望み』をもう一度聞いてあげて」


 妖精がコオロギの夢に入り、「大きな羽のままでいいのかい?」と問うと、コオロギは笑って答えました。 「この羽は返すよ。やっぱり、自分自身の羽が一番だ。この小さな羽で鳴く声を、彼女が『宝物』だと言ってくれたから。今の自分のまま生きていくことが、僕の幸せなんだ」

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