第3話 城を昇る

私は城の壁に指を掛ける。

あとは筋肉強化の魔法で指先をもっと強化するだけ。


城の下の方の壁って、登ってわかったけど、微妙にオーバーハングになっている。

それに、汚れていて滑りやすい。あーやだ。


(シルヴァンは、今、どんな仕事をしているのだろう)


小指を小窓の桟に掛けた。

その引っ掛かりだけで、私はぶら下がっている。

ああ、月が眩しいや。


(どうしよう)

目的の門は上から探すつもり。

それに上に塔が2つもある。

そこには、きっと囚われたお姫様がいるに違いない。


部屋の中で人影が動くのが見えた。

どうやら気配からすると、女性だと思う。

耳を澄ますと、布の擦れる音もする。

吐息が聞こえた。

これは間違いなく、若い娘だわ。


(お着替え中かも~)


行きがけの駄賃で、ここでご休憩というのもありね。

そう思った時点で、ハッとして我に返った。

(ハニートラップ!)


敵の思考を読んで、誘い込んで隙を突いて来る魔物。

頭の中に警戒ランプが点いた。

(休憩終わり)

私は気を取り直して、外壁を登り始めた。


窓の中をチラ見したけど、えっ礼拝堂? あら、お着換えはシスターなの!


こういう勘が外れる時は、特に慎重に…


険しい顔をしながら登り続ける。

私は東西の塔を繋ぐ、渡り廊下の手すりのブロックに手をかけて廊下に立った。

隠れる所がなく、月の光に私の黒い武装が晒される。

(どちらの塔にいくべきか?)


迷っている暇は、もらえなかった。

私は、いきなり影に覆われる。

ガリッ、軽石を削るような音がした。

私の代わりに、手すりの硬いブロックが大きく削られている。

とっさに前転して、躱したのは勘でしかない。

(どこが簡単な仕事なのよ!)


距離を取って、腰の剣に手をかけて、そいつを見た。

翼のあるトカゲみたいな魔物が、渡り廊下の上で羽ばたいている。

あいつの足の鉤爪が厄介ね。


それに、もう一匹いた!

ただ気配を捉えた以上、攻撃への対応は、問題無い。

攻撃を躱しながら、逆手で抜剣して、翼の一部を斬り落した。


キェーッと、そいつが声を上げた。

ここまで来たら、もうバレてもしょうがない。

渡り廊下の両端の塔の扉が開いた。

そして出て来たのは、どちらも、角の生えた大きな体躯の魔物だった。


「えっ、ええっーーー!」

私は、パチパチ瞬きをして、どこで間違えたか思い出す。

どうして塔に美女がいると思ったのだろう。


ーーー 最近、金欠で、女の子と遊べなかったから…


しかも、扉(門)を開いて、魔物が出て来たじゃない!

(そうよ門!)


渡り廊下から、城の周りを見回す。

門は見当たらない。見えるのは目の前の城だけ。

それは、おかしい、私は今、城にいるのよ。

そうかあれは、池に映ったモノ、この城の前面だわ。





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