スイカ割り

ロゼ

第1話

 肌を焦がすほどの強い日差しが照りつけている。


 人気のところとは違って、田舎の寂れた海水浴場には人の姿はなく、それがプライベート感を醸し出しているようにも感じられた。


「めっちゃ穴場じゃん!」


 私を海に誘った友人の『ミナ』にそう言うと、ミナはすっかり日に焼けた顔に真っ白い歯を覗かせながらニカッと笑った。


「でしょー。人が来ない海水浴場、めっちゃ探したからさー」


 人が多い海水浴場はそれはそれで楽しい。


 海の家が乱立していてそれぞれが特色を生かして切磋琢磨しているから、美味しいものに簡単にありつけるし、更衣室やシャワーも充実している。


 人が多い分出会いも多い。


 だけど、あまりにも人が多すぎて、海に入っても好き勝手に遊べなかったり、砂浜から海までたどり着くまでの距離が長すぎたりという欠点もあったりする。


「さすがにね、更衣室とかないんだけどさ」


 元は海の家だったのであろう建物が砂浜の入口付近に一個あるけど、何年も使われた形跡がない上にボロボロ。


 色あせた文字で『シャワーあり〼』と書いてあるけど、さすがにもう使える状態でもないと思う。


「まぁ、今回は海に入るわけじゃないからいいっしょ!」


 私達の目的は『スイカ割り』。


 ただそれがしたいがためだけに海にやってきたのだ。


 二人でセッセとセッティングをし、メインとなるスイカ・・・を車から運び出す。


 午前中に着いたのに、もうすっかりお昼も過ぎ、日差しは最高潮に高くなっている。


「さ、始めよか」


 ミナが持ってきたラジカセで夏っぽい陽気な音楽を最大音量で流してくれた。


 目隠しをし、ミナの声の指示に合わせてスイカへと近づいて鉄バットを振り下ろすも、砂を打つ感触しかなかった。


「惜しい! あと一歩奥だったね」


 目隠しを外すと、バットはスイカの手前五センチほどの砂に跡を残していた。


「じゃ、次はあたしの番ねー!」


 ミナがノリノリで目隠しをし、私の指示通りに動いていく。


「そこそこ! いけ!」


「うぉりゃっ!」


 ミナが振り下ろしたバットはゴンッと鈍い音を響かせてスイカを直撃したものの、真っ二つとまではいかず、少し割れた程度だった。


 その後、二人で交代しながら汗だくになるまでスイカを割り続けた。


 空がすっかり色を変え、風が心地よく感じ始めた頃、私達のスイカ割りは終了した。


「綺麗に割れたねー」


 割れたスイカを満足気に見下ろすミナ。


「ほんとにね。で、これどうする?」


「このまま埋めときゃ分からんくない?」


「でもさ、あの辺まで潮が上がってくることもあるみたいだし、出てきたらヤバくない?」


 停めている車の近くまで波が来た形跡が残っている。


「ほんと、最後までマジでクソだよな、こいつ」


 ミナが物も言わなくなったを憎々しげに足蹴りした。


 詐欺師で、金を巻き上げては女を破滅させるクズだった私達の元彼。


 スイカ割りのスイカはまさにその男だった。


「まぁ、今度は山にキャンプでも行けばいっか」


 スイカのように割れた頭部を見ながらそう言うと、ミナが明るい笑顔を向けながら「やっぱあんたって最高!」と言い、「じゃ、今から山に行くぞ!」と砂浜を片付け始めた。


「……そうだね、次は山」


 明るいミナを見ながら私はそうほくそ笑んだ。

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スイカ割り ロゼ @manmaruman

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