登場人物紹介

登場人物紹介


『冬萌(ふゆもえ)の断絶 ――ひっくり返せ、50代のコップ――』


■ 主人公

美智子(みちこ)/51歳


一年前から、外出が困難になった女性。

更年期による火照り、動悸、眩暈、不眠に悩まされているが、医者の前ではうまく言葉にできない。


若い頃から「ちゃんとした人」でいようとしてきた。

教師として、妻として、母として、友人として。

気づけば、自分の感情だけが、どこにも置き場を失っていた。


家事はこなせる。生活は破綻していない。

それなのに、「生きている実感」だけが、抜け落ちている。


彼女の中には、ずっと満たされ続けた一杯のコップがある。

溢れることを恐れ、ひっくり返す勇気を持てずにいたが、

物語の中で初めて「自分を救うための行動」を選び始める。


■ 夫

和夫(かずお)/56歳


美智子の夫。会社員。

無口というより、「聞く姿勢を失った人」。


口癖は「飯は?」「疲れてるんだよ」。

美智子の体調不良を、怠けや気のせいだと思っている。


悪意があるわけではない。

ただ、「妻はそこにいて当たり前」「世話をする存在」という認識から、一歩も動かない。


物語の中で、彼は劇的に変わらない。

それが、この物語のリアリティであり、

美智子が「他人ではなく、自分を選ぶ理由」になる存在。


■ 親友

陽子(ようこ)/同年代


美智子の学生時代からの親友。

かつては、仕事や子育ての愚痴を言い合った“戦友”。


現在は、孫が生まれ、生活が「成功談」で満たされている。

悪気なく送られてくる写真や動画、明るい近況報告が、

美智子にとっては静かな刃になる。


陽子は美智子を傷つけるつもりはない。

だからこそ、美智子は「距離を取る」ことに罪悪感を抱いてきた。


物語後半、初めて**「NO」を伝えられる相手**。


■ 音楽(準・登場人物)

「はいよろこんで」/こっちのけんと


直接会話はしないが、美智子の心に深く入り込む存在。

言葉にならない感情を、リズムと声で代弁する。


うまく踊れなくてもいい。

上手に生きられなくてもいい。

「壊れたままで肯定していい」というメッセージが、

美智子の背中をそっと押す。


■ モチーフとしての登場人物


(※人ではないが、物語を動かす存在)


スープ

 生きるための最低限であり、再生の象徴。

 「誰かのため」から「自分のため」へ変わる瞬間を示す。


玄関

 世界との境界線。

 開けること自体がゴールではなく、

 「鍵を持つのは自分だ」と気づく場所。


コップ

 感情の容量。

 我慢、役割、期待で満たされてきた50年分の重み。


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