第7話 魔女リーベル


闇市は、賑わっていた。

ファラーシャは、馬から降りて歩いていた。

|(この何処かに魔女がいるのね。だけどどうやって探せばいいの)

「あの…」

すれ違う人に話しかけてみる。

「魔女を知りませんか?」

「はあ?魔女だって!」

皆、首を振ったり傾げたり。

「魔女がいると聞いてきたんですけど…。」

「確かに噂では聞いたことがあるわ。

願いを叶えてくれるという魔女。

だけど会ったことがあるという者に会ったことはないね〜。」

お店の人に聞いても誰も知らないと言う。

|(どういうことなの。月神が言ったことは、嘘だったの)

屋台のような店が所狭しと両脇に並んでいる。

気がつくと人の流れもまばらになっていて街の外れまで来てしまっていた。

振り返りもう一度探すことにした。

「カウィ、きっと無事にたどり着いてるわよね。カウィも魔女を探してるはずよ。」

そう馬に優しく話しかけるファラーシャだった。

とても心細く、心が折れそうになっていた。

早く魔女を探さなければいけないのにその場から動けないでいた。

そんな時、なんだか足元に温かさを感じた。

いつの間にか黒猫が喉をゴロゴロと鳴らしてすり寄ってきていたのだ。

「あら?真っ黒だから気が付かなかったわ。」

ファラーシャは、しゃがみ込み、その黒猫を抱きかかえようと手を伸ばした。

だけどその黒猫は、ファラーシャの手をかわし2、3歩先に行ったところで黒猫は、振り返りファラーシャに言った・・・のだ。

「ついておいで。」と。

「猫がしゃべった!?」

ファラーシャと馬は、お互い顔を合わせるのだった。

先程来た道を戻るかたちで黒猫のあとをついて行く。

長い尻尾をアンテナのように真っ直ぐ星空に向け器用に人々の足をかわしながら進んで行く。

|(さっき魔女について訊ねたおばさんのお店だわ…)

その黒猫は、その店の前で振り返り、ファラーシャに早く来いと言わんばかりに鳴いた。

「ニャ〜」

今度は、猫の声で。

そしてその店の脇を抜けて奥へと行ってしまった。

さすがに店と店の間の隙間は、ファラーシャですら通れない。

ましてや馬なんて無理無理。

ファラーシャは、その黒猫が抜けていってしまった先を見失わないように目で追った。

すると今まで賑やかだった周りの人々の雑音が何も聞こえなくなった。

そして見つめる先に、先ほどここを通った時には、気付かなかった赤紫色をした布で中央は高く壁際は低いワンポールテントのような形をした建物がそこにあった。

黒猫は、その建物の中にスゥっと消えていったのだ。

何かに引っ張られるかのように不思議とファラーシャは、何のためらいもなく屋台と屋台の間を通り抜けようと歩き出した。馬も一緒にだ。

周りの人間は、そんなファラーシャと馬を気にする者は、いなかった。

まるでそこにファラーシャたち・・が存在していないかのように。

とても通り抜けるなんて無理なはずなのになぜか空間が歪みファラーシャと馬は、通り抜けることが出来たのだ。

そしてそのテントのような建物の前に来たファラーシャは、入り口であろう布をゆっくりと開けた。

「あの〜…どなたかいらっしゃいますか。」

中は、真っ暗で何も見えない。

黒猫の姿も当然見えない。

勇気を出して一歩、中に入ってみた。

馬も一緒に。

すると今まで真っ暗で何も見えなかったのに辺り一面、宝石を散りばめたようにキラキラとまるで満天の星空の中にいるかのようだ。

「なんて綺麗なの」

ファラーシャは、驚きを隠すことが出来ず思わず声が出てしまった。

驚きは、それだけではなく目の前に黒いマントに黒いフードを被った老婆が丸いテーブルの向こう側に座っていた。

いつの間にかテーブルの上に一本のロウソクに火が灯り、オレンジ色の炎が老婆の顔を薄暗い中に浮かび上がらせたものだからファラーシャは、短い悲鳴を上げ慌てて口元を両手でふさいだ。

「ごめんなさい。私は、ファラーシャと言います。その…魔女を探していて…その…黒猫が…それで…」

突然の出来事と恐怖で言葉がうまく出てこない。

下を向き、冷静に落ち着こうとするファラーシャだった。

黒猫が現れたことにも気づかず。

「その黒猫は、こんな姿だったかい?」

その声にファラーシャは、顔を上げた。

さっきの黒猫が丸いテーブルの上にちょこんと前足を揃えて座っているのだ。

そして、今度は、老婆の姿が見当たらない。

するとその黒猫は、ゆっくりと歪みだし徐々に形を変えていく。

なんと先程、テーブルの向こう側に座っていた老婆に変身したのだ。

「さぁ、そなたの願いを1つだけ叶えてやろう。」

驚いたファラーシャだったが、その老婆が魔女だと確信した。

「あなたが願いを叶えてくれる魔女ね…」

小さく呟いたのだった。

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