第5話 満月の夜に
満月の夜。
再び同じ世界が広がり何事もなかったかのようにいつもの宴が始まるのだ。
少し眠っていたのかなと思う程度でお母様と踊るはずなのに。
なのに今日は、何か違うと感じた。
ファラーシャは、王妃に連れられて一階へと降りていき外へ出る扉の前まで来ていた。
そこにはカウィが立っていてゆっくりと扉を開ける。
城壁の大きな扉も開かれていた。
その向こうには、薄暗い夜の世界が広がっていた。
満月の月明かりに照らされて砂の小さな粒がキラキラと輝いている砂の世界。
見張りに立っているアスワドの兵の数が少なくなっていることに気が付いた。
それに静かだ。
「まさか…。」
ファラーシャは、振り向いた。
王妃は、ファラーシャの手を握りカウィを呼んだ。
「カウィ、ファラーシャを頼んだわ。きっとあなた方は、幸せになれるはずよ。さぁ急いで。」
そういうと王妃は、ファラーシャに瞳と同じ深く澄んだ青色の石がついた首飾りをファラーシャに。
「わたくしはいつもあなたのそばに…、これは、あなたの父である王様から貰ったものよ。父も母もあなたを見守っているわ。」
そう言い残し、広場へつながる階段を駆け上っていくのだった。
突然のことにファラーシャは、戸惑いを隠せないでいた。
そして、ことの意味がわかった。
「そんなこと出来るわけない、ならお母様も一緒に」
戸惑うファラーシャにカウィは、
「ファラーシャ様、許してください。」
そう話しながらファラーシャの手を引き用意してあった1頭の馬へと向かう。
カウィ達は、気付いていなかった。
薄暗い暗闇の中に紛れて、背後にもう1頭、馬がいる事に。
「王妃は、月神との約束を破るわけにはいかないのです。すれば、皆、永遠と砂になってしまうからです。」
「では、もう二度とお母様に、会うことはできないのですか…わたくしも残ります。」
そういうとカウィの手を振りほどき母親の元へ駆けていった。
カウィは、ファラーシャの気持ちも分からないでもない、もし魔女に出会うことができなければもう二度と会うことはできないのだから。
カウィも一度決心はしたものの本当にそれが幸せになれるのか迷っていた。
ファラーシャの踊っている姿を眺めながら王妃は、カウィに言った。
「カウィ、月神が言ったことを次の満月の夜に実行してほしい。ファラーシャと共に。
あなたならきっとやり遂げてくれると信じてるわ。」
カウィは、驚いた。
王妃は、話を続けた。
「あなたとファラーシャが想いあっているのはなんとなく感じていたわ。だからこそ幸せになって欲しいの。このままでは、永遠に安らぐことなんてできないわ。アスワドがいる限り。」
「しかし、もし…」
「シー…。」
カウィの口元に指を立て言葉を遮った。
「大丈夫よ。あなたなら」
王妃は、美しい微笑みを浮かべファラーシャの踊りに加わった。
|(なんて臆病なんだオレは…。)
カウィは、
|(王妃がどんな思いでこの私にファラーシャを託したのか。)
ここから脱出するのだ。
決心がついたカウィは、ファラーシャのもとへと急いだ。
「ファラーシャ!!」
叫んだのは、アスワドだった。
アスワド達がファラーシャを囲み一瞬にして連れ去ってしまったのだ。
何が起こったのか分からないファラーシャ。
窮屈で何も見えない。
手足が縛られて身動きがとれない。
一体何が起こったのか。
ファラーシャとアスワドを乗せた馬が走り出した。
「後は頼んだぞ。あの弱虫カウィが追いかけてこないように殺してしまえ。すれば、そなた達は、自由だ!!」
そういうと城から砂漠へと消えていったのだ。
自由と聞いた兵たちは、好きなだけ酒が飲めるし、おしゃべりだって出来る、腹一杯に食事もできるとアスワドからの支配がなくなるのだと喜んだ。
「ファラーシャ様!!」
カウィの目の前を1頭の馬が駆けていく。
その馬の背には、黒いマントをきたアスワドと大きな麻の袋を乗せていた。
ファラーシャの姿はどこにも見当たらない。
|(まさか…。)
不審に思ったカウィは、用意していた馬に乗りすぐにアスワドを追った。
城から唯一外へとつながる門へ。
だがザラム国の兵たちが行く手を阻む。
横一列になってカウィを城から出させないように。
カウィは、一旦馬を静止させた。
「そこをどけ。月神が言ったことを忘れたか。」
カウィは、馬を
今度は、止まるどころかぐんぐん速度を上げていく。
そのまま突っ込んでくるのかと誰もが思い彼らの武器である槍をカウィに向けた。
ザラム国の兵たちが身構えた瞬間、カウィを乗せた馬は、兵たちの頭の上を軽々と飛び越えてしまったのだ。
一瞬の出来事で兵たちは呆然と砂漠に駆け出していったカウィの後ろ姿をただ眺めているだけで誰ひとり追いかけようとする者は、いなかった。
…月神の忠告
「
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