第4話 伝説 フエロザ王国
「ん〜〜、なかなか面白い本だったわ」
大きく背伸びをしてソファから立ち上がった。
ファラーシャ王女は、窓辺に立った。
美しい金色の長い髪にブルーの瞳。その瞳と同じ色のお気に入りのドレスに身を包み朝から部屋に閉じこもって、大好きな本を読んでいた。
窓からの景色は、いつもと変わらない。
一面に広がる砂。
そこに建つ城。国民は皆、砂の城と呼ぶ。
「この先には海があるのね。見てみたいわ…」
ずーっとずーっと先には海があるという。
本で得た知識だ。
いつか見てみたいとファラーシャは、キラキラ輝く砂の山をずーっと見つめていた。
その時、ファラーシャの部屋の扉が勢いよく開いた。
慌ただしくお世話係のカナカが飛び込んできた。
「ファラーシャ様、早く逃げて下さい、火が放たれました火事です。」
そういうと、ファラーシャを部屋から連れ出した。
「火事って?何があったの?お父様とお母様は何処?」
カナカは、それには答えず身を隠す様に素早く城の中を移動し城の外に繋がる廊下をファラーシャと共に走った。
そして外へ
ファラーシャは、目を疑った。
そこには、無残に倒れている者もいれば剣で闘っている者、敵も味方も分からないほど入り乱れている光景だった。
「何が起きてるの?ねぇカナカ!!」
取り乱すファラーシャにカナカは、素早く城の後ろへとファラーシャを連れていき、隠し扉から逃がそうとした。
「ファラーシャ様、王妃様は、無事です。この先でファラーシャ様を、待っています。さあ、早く」
カナカは、心配させまいと優しい笑顔をみせたのだった。
その瞳には、強い決心がみえた。
そしてカナカは扉を閉め、鍵を外側から掛けたのだ。
「カナカ!!カナカ!!」
ファラーシャは、力一杯、扉を叩いたがびくともしない。
「わたくしは一緒に逃げることは出来ないのです。ここで戦っている息子を残して。ファラーシャ様、お元気で」
そう言って扉から離れたのだった。
城の庭では激しい戦いが繰り広げられていた。
何が起きたの?戦争?薄暗い狭くて長い石垣でできた通路を壁伝いに少し背をかがめながら走って行く。
たまに後ろを振り返りながら。
だが、誰も追っては来ない。
自分の息づかいだけが響く。
走った。
今までこんなに必死に走ったことはない。
怖い。
早くここから出たい。
どこまで続いているのか。
お母様が待っていると言っていたがどこ。
すると目の前にかすかな光が見えてきた。
一瞬たちどまる。
そしてゆっくりとその光の方へと近付いて行く。
上から微かな光と砂が落ちてきている。
キラキラと。
上に扉が?
怖い…もしこの上に………。だがこうしては、いられない。
カナカを信じよう。
ファラーシャは、意を決して扉を、叩いた。
するとすぐさま扉が開き逞しい腕が伸びてきた。
暗闇に目が慣れていたせいか扉が開いた瞬間、光に目がくらんだ。
そして、倒れそうになったがその腕がしっかりとファラーシャを捕まえた。
そして軽々と外の世界に連れ出したのだ。
「ファラーシャ!!無事なのね」
そう言ってファラーシャと同じ髪色の女性に強く抱きしめられた。
「お母様!!」
そしてそこにはもう一人、二人を見つめる騎士のカウィがいた。
「さあ、感動の再会はこれまでにして逃げるのです。さあ、早くこちらへ。」
そう言って王妃が馬に乗るのを手伝った。
ファラーシャは、カウィと共に馬に乗る。
乗ったらすぐに走り出した。
「ちょっと待ってお父様は?」
カウィにしがみついてファラーシャは、聞いた。
だが誰も答えてくれない。
「死んだのね」
城を振り返った。
白く輝く城は、真っ赤な炎に包まれていた。
すると城の方から何か黒い粒が広がってだんだんと近づいてくるのが見えた。
あれは、アスワドの国の旗。どんどん近づいてくる。
「カウィ!アスワド達だわ」
ファラーシャはカウィを見た。
何も答えないカウィだったが大きな背中からは、想像ができた、
「国の人達は?カナカは…。どうして…。」
悲しむファラーシャ。
砂漠の中に位置し年に数回の砂嵐で何日も外に出られない日もあった。
だけど湧き水に恵まれその周りには小さな森がいくつもあった。
それなりに楽しく豊かに暮らしていた。
どうしてこんな事に。。。
「まさか、アスワド達が」
ファラーシャは震え上がった。
強く閉じた目には涙が溢れた。
涙は頬にとどまることもなく風と共に後ろへと流れていく。
アスワドのザラム国は、同じ砂の国ではあるがフエロザ国ほど恵まれた土地ではなかった。
しかしザラム国王がまだ生きていた頃は、お互いを尊重しとても友好関係だったが、ザラム国王が亡くなり息子であるアスワドが新王となったとたんその関係は、けして友好とはいいがたい関係へとなっていったのだった。
そして、そんな関係のなかでファラーシャを我が妃にと結婚を懇願して来たのだった。
カウィが突然叫んだ。
「海だ!」
気がつけば辺りは、薄暗くなっていた。
空には薄っすらと白くぼんやりとした月が姿を現していた。
波の音が広がる。
コレが海…今まで見たこともない風景が広がり何処からとも無く押し寄せては消え押し寄せては消える水。
ファラーシャは、初めて見る光景に…このような形で見たくなかったと目の前に広がる壮大な海を眺めていた。
この先へは進めない。
馬を制止させた。
王妃も並んで馬を制止させる。
右も左も砂と海がずーっと曲線を描きながら続いている。
微かに左前方に灯りが見える。街の灯りなのか…。
このままでは、アスワド達に捕まってしまう。
捕まったらどうなる!?考えただけでも恐ろしく身震いがした。
あたりは、すっかり暗くなりいつしか空には無数の星たちが輝き出していた。
一際輝いているのは月。
今日は1年で最も美しい満月の夜だった。
白銀に輝く月に向かって王妃は祈った。
「月神よ。どうか私共を助けたまえ。助けていただいたら貴方様の言う通りにします。どうかお助けを」
王妃は、砂の上にかがみ祈り続けた。
ファラーシャも母に続き祈った。
「あちらに灯りがみえます。あちらに向かいましょう。早く」
とカウィは、馬に乗るよう急かしたが王妃とファラーシャは、祈りをやめなかった。
するとどうでしょう。
月が一層輝き始め辺り一面をその白く輝く光が覆った。
もちろん追いかけてきたアスワド達にも光が降り注ぐ。
「何事だ。眩しくて何も見えない。」
目がくらんだ何人かの兵士達。
馬も驚き暴れ出し乗っていた兵士たちが次から次へと振り落とされていく。
突然、何処からとも無く声が響く、一斉に皆、空に浮かぶ月を見上げるのだった。
「そなた達を助けてやろう。ただし条件がある。それでも良いか」
どこからともなく聞こえてきた声は、月神のものだった。
「…分かりました。私共をどうかお助け下さい。」
すると凄まじい光が辺り一面を覆いつくしそこにいた者たちを一瞬で消し去ってしまったのだ。
ファラーシャ達はもちろん、アスワド達までもが。
残されたのは、静かに波打つ波の音。
海は穏やかだ。
何事もなかったように夜は更けていった。
月もまた何事もなかったかのように少しづつゆっくりと欠けていくのであった。
そして幾日が経って満月の夜が再び訪れた。
「どういうことだ。何が起こったんだ」
カウィは、目の前で起こったことに驚きを隠せないでいたがすぐさま自分が守るべき者達を探した。
探すまでも無く
ただここは、海辺ではなく、見たことのある場所にいたのだ。
城だ。
我々の
月が言う。
「満月の夜だけ人間の姿に戻る。わたくしをそなた達の舞で楽しませてほしいのだ。
夜が明ければそなた達は砂となる。逃げ出したものは、夜が明ければ、二度と人間の姿に戻ることはないだろう。砂となり永遠とこの地を彷徨うことになろう。生きることも死ぬこともなく。
そして、
満月の夜のみ人の姿…砂になる…。
ファラーシャとカウィは、お互い見つめ合うのだった。
今日も月は、何も言わず白く輝いているだけだった。
王妃と王女の舞は、優雅で美しく、誰もがウットリと見惚れてしまうほどである。
踊りながら王妃は、毎夜願うのだった。
|(月神よ、わたくしは、かまいません生涯永遠と貴方様の為に踊り続けます。ですがどうか娘のファラーシャは、まだ若いのです。お願いです若い者たちだけでも自由にしてはくれないか。)
満月の夜になる度にそう月神に願うのだった。
踊りを終え、踊り疲れた体を休ませる。
だが不思議と次の満月の夜には、疲れなどないのだ。
そう歳をとらない体…。
松明の灯りの向こうにアスワドが不気味な笑みを浮かべてこちらの様子を伺っている。
その視線がさらに疲れた体と心に追い打ちをかけてくる。
今宵も月神は、答えてくれなかったと諦めたときだった。
白く輝いていた月がいっそう輝きだし
「素敵な舞を魅せてくれるそなた達に面白いことを教えてやろう。ここから東へ数キロ行ったところに街がある。次の満月の夜に闇市が開かれるであろう。そこに魔女が現れる。どんな願いもかなえてくれると言うぞ…ただ…人間の姿でいられるのは、満月の夜だけ。
日が昇れば砂になってしまう。
二度と人間の姿になることはない。
魔女に会って願いをかなえてもらえれば別の話だが…。
さぁ、そんな勇気のあるものは、いるか…フハハハハァ」
そう告げると月は一瞬にして元の姿に戻り何もなかったかのように静かに暗闇を照らしているのだった。
なんだか我々を面白がっているかのようだとファラーシャは思った。
突然の月からの挑戦ともいえる発言が皆の心を乱すのであった。
東の空が明るくなってきた。
月が白く薄く消えていく。
突然の月からのメッセージにカウィも例外ではなかった。
少し動揺は、したものの冷静さを装い、お別れの言葉をのべた。
「王妃、ファラーシャ様、またの満月の夜までお別れです」
そう言ってカウィの姿は砂になって風とともに消えていくのであった。
もちろんファラーシャも、そして皆もが砂へと変わり消えていく、アスワドも不気味な笑みを浮かべながら、そう、城も何もかも。
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