第2話 砂の城
美しい大きな白壁の城が闇の中に建っていた。
辺り一面は、月の灯りに照らされキラキラと輝いた砂丘が広がっている。
人々の歓喜の声が響き渡る。
炎を囲み艶やかな衣装に身を包んだ人達が優雅に踊っている。
その輪を眺めながら酒を飲んで各々歌を唄っている者もいれば口いっぱいに肉を頬張る者、真剣な表情を浮かべ難しい話し合いをしている者たち。
そして、その周りには、鎧に身を包んだ者たちが背を向け外の様子を伺うように立っている。
豪華な食事に果物、お酒も食べ物もたくさん並べられたテーブルの奥に目立たぬ様ひっそりと寄り添って座っている、ひときわ美しい女性が2人、目を伏せ、
その直ぐ側には、剣を持った若者が立っている。
「ご安心下さい。王妃様。
いつものように振る舞っていれば何も起こりません。何かあったときは、このわたくしが盾になりお守り致します。」
鍛え抜かれた体に凛々しい顔立ちの男は言った。
その言葉に1人の女性が応えた。
「カウィ、貴方だけでもいてくれてどれだけ心強いか分かりません。」
その女性は、この城の王女ファラーシャだ。
カウィに微笑みかける。
騎士であるカウィは跪き王女を見つめた。
「ファラーシャ様」
そんな二人を王妃は、複雑な想いでみつめ、そっと空に浮かび輝く満月を見上げて言った。
「我々は、いつまでこのような状態が続くのか。満月の夜だけ人の体に戻り貴方様に歌や踊りを捧げ。年も取らぬ、時のままだ。
月神よ、答えてくれあの時のように…」
そう月に話しかけても月は何もこたえてはくれなかった。
あの時とは違って。
そこへ、いかにも意地悪そうな雰囲気を漂わせたアスワドが現れた。
黒い衣装に身を包みイヤらしい口ひげを撫でながらニタニタとファラーシャに近づいてくる。
それを警戒して騎士のカウィが立ちはだかる。
「またお前か、いつも邪魔をしてくれるな〜、私とファラーシャは恋仲なのだ〜お前の出る幕ではない。引っ込んでおれ」
そういうと息を吐きやれやれと言わんばかりにカウィの顔に近づき睨みを効かせたのだ。
カウィも負けてはいない。
睨み返したのだ。
「オイオイ、冗談だろ、私は、王女のフィアンセだぞ。そんな態度をとってただで済むと思うのかい?」
アスワドは、一歩下がり澄ました顔で言った。
そしてカウィの後ろにいる王妃に向って言った。
「おとなしく我々の国に負けを認めていれば、このようには、ならなかったのでは?国王も死、助かったのは…そなたと麗しい我がフィアン…」
アスワドの言葉を遮ったのは、ファラーシャだった。
「フィアンセだなんて気色の悪い。いつ、あなたのフィアンセになると言った?卑怯な真似をして、優しかったお父様に近づき殺したのはあなたじゃない!城に火を放って無理やりこの国を支配下にしようとした。全てあなた、アスワド」
興奮したファラーシャを抱きしめて王妃が厳しい目をアスワドに向けた。
「お〜怖い。美しいお顔が台無しだよファラーシャ。わたくしの為に微笑んだらどうだ。そうさ、それも全てファラーシャが悪いのだぞ。そなたの美しさは罪だ。どうしても我がものにしたくなっただけのことだ。なのにあの国王め、私を哀れんだ目で見下しおって」
アスワドは、その時のことを思い出したのか険しい顔となり王妃を指さし怒鳴ったのだ。
「お前があんな祈りを捧げなければこんな世界にはならなかった。満月の夜だけにしか存在しない我ら。約束を破れば、砂に変えられてしまう。だから殺すことはしない。ただ…アノ時に素直に我らにひれ伏せば良かったものの。お前らに追いついた我らの僅かな兵とそなたの国の生き残り…」
と言葉を切ってさっきまでの口調とは、うって変わりやらしい目つきで踊っている人々のほうに振り返り
「今や私の奴隷となった。アスワド様〜と崇めているではないか。強いものに惹かれるのは、当然だ。
さぁ、次は、そなた達の番だ。月神も待っておるぞ。さぁ踊れ。」
くるっとアスワドは、王妃達へ振り返えり
薄気味悪い笑みを浮かべて言ったのだ。
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