砂の城
仲ゆい葉
第1話 風
「何か聞こえる…」
僕は耳を澄ました。確かに聞こえた。悲鳴のような、それとも悲しい叫び…。
「ねぇ、、聞こえたよねキダイ…」
僕は大きな声で言ったのに僕の言葉は、あっという間に風がさらってしまった。
風がだんだん強くなってきた。激しい砂嵐がやってくるなと直感した。
目も開けて
キダイは、大丈夫なのだろうか。
たまに馬がいうことを効かない時がある。
キダイは、そんな馬をなだめ無言でひたすら手綱を引いて歩いて進む。
しかし凄い砂嵐だ。
だけど微かに聞こえる声。いや、風の音なのかな…。
もう一度キダイに呼びかけてみた。
「キダイ、聞こえるよね?人の…」
その時だった。
風の勢いが一瞬スローモーションのようにゆっくりと生暖かい空気のような感触に変わり僕を取り囲んだ。その瞬間、見えた気がしたんだ。人の姿のような…そんなはずはない、僕は目が見えない…と思った瞬間、激しい砂嵐が全身を撃つ。
あっという間だった。
(一体何だったんだろう)
カマルは、身震いした。きっと気のせいだ。
長旅で疲れてるのかな〜。
どこまで来たんだろう。
村を出てからひと月?、いやいやもっと経っているかもしれないな!
お祖母さんは僕の事、心配してるかな?クスッとカマルは、ひとり笑った。
「キダイ、くれぐれもカマルを危険な目に合わせないでおくれ。キダイを信じているがお腹がすいてしまったらすぐ戻ってきなさい。分かった?」っと言い聞かせていた。
僕は、もう小さい泣き虫な赤ん坊じゃぁないんだからね!
もう立派な12歳の男だぞ!
そりゃ見た目は、幼い子供にしか見えないだろうけどキダイのような立派な男になるんだ!!
両親を亡くした僕を育ててくれてるお祖母さんのユウは、とっても心配性なんだ!
そんな事を思っていると馬が止まった。
いつの間にか砂嵐は、止んでいた。
辺り一面は砂の山、ここは砂漠だ。キダイが教えてくれた。
キダイは、カマルを見上げて言った。
「今日はここで野宿としようか」
そういうと馬の背から僕を優しく、そして軽々と下ろしてくれた。
大きくて温かい手。
キダイは一体どんな顔をしてるのかな…。
ユウが言うには、かなりのイケメンだそうだ。
僕が思うイケメン像は…と考えながら、マントに積もった砂を払った。
キダイは、手際よく落ちていた枯れ木に火をつける。
食料の入った袋から干し肉と葉っぱを取り出してたっぷり鍋に入れる。
香辛料も入れて、あ〜いい匂いがしてきた!美味しそうだ。
砂漠にもオアシスというところがあって水が湧き出ている。
周りには、少なからず植物が生きている。
葉っぱからは、とろみが出て栄養満点のスープが出来た。
キダイがスープをくれる。
一口飲んだところで僕は、質問をした。
「あとどのくらいで、その〜なんとかっていう市場に着くの?本当に僕の目が見えるようになるのかなぁ〜…。」
少しうつ向いた僕にキダイは、穏やかな口調で話してくれた。
「ヤランガ闇市は、毎年どこで開催されるのか正確には誰も知らないんだ。どういった闇市なのかも。噂でしかないが、ただ分かっているのは、年に一度最も美しい満月の夜に開催されるということだ。しかもこの砂漠の何処かで。だが大体の目星は付いているから大丈夫だよ。」
|(ただ、会えるかどうかだ)とキダイは、あの時、看護師達が話しているときのことを思い出した。
僕は、街で気を失って倒れていたらしい。
その隣には1頭の馬が心配そうに僕から離れなかったという。
それがこの馬だ。
ユウが働いている病院に運ばれて治療を受けたが深い切り傷と記憶を失っているということ。
「ヤランガ闇市に現れるっていう魔女の仕業じゃないのかしら?ほら噂の…
「こわ~い!」
「ほらほら手も動かしてね。」
「はーい」
ユウに急かされ看護師達は、自分の持ち場に慌てて戻っていった。
|(なんでも願いを叶えてくれる…)
僕は、ネタフリをして話を聞いていた。
「さあ、彼には、名前が必要ね…いつまででも
キダイという名はユウが名付けたのだ。
引き取りてもないこのコを記憶が戻るまで預かることにした。
もちろん婆さん1人と幼い子供だけの家に見ず知らずの男性を招き入れるのは危険だと周りには反対されたが病院でのキダイの振る舞いをみていて不思議と不安はなかったのだ。
ユウは、キダイと並んでも引けを取らない背格好の体格でもあったからいざとなった時には、ぶん殴ってやる覚悟があった。
だけどそんな心配はいらなかった。
キダイは、穏やかで明るくてカマルの面倒をよく見てくれた。
それから7年の月日が経ったある日、キダイがカマルの目を治すために旅に出たいと言ってきたときには、噂を信じるなんてと反対をしたんだがあまりにも真剣な顔で言うもんだから何か確信があるのかと心を動かされてしまった。
可愛い子には旅をさせろっていうじゃないか!
不安そうな顔をしたカマルに優しくキダイは、微笑むと寝床を作ってくれていつでも眠れるよう準備をしてくれた。
僕は、お腹いっぱいになりウトウトし始めたからその寝床に横になった。
キダイは、火を絶やさないよう起きている。
僕は、ゆらめく炎とその向こう側に広がる星空を眺めながら知らないうちに眠りについていた。
キダイは、眠りについたカマルを確認し、満天の星空を見上げた。
「今日は、満月だったな。だけど今日じゃない。」
と呟いた。
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