第10話 王冠と転校生 4
出来上がった料理をダイニングテーブルに並べていく。
映画もタイミングよく終わったようだし、理央を呼んで席に着かせた。
向かいの席に座って、少し早めの昼食だ。
「うん、美味しい、君は凄いな」
「そうか? ハハッ、もっと食べてくれよ、おかわりもあるぞ」
理央は喜んでいるみたいだな。
好きな相手に作った料理を食ってもらえるのって幸せなことだ。
一緒に食べればもっと嬉しい。
自分の手料理でも普段以上に美味く感じられるし、まさに愛情は最高の調味料ってやつだ。
「君はうちのシェフに匹敵する腕前だよ」
「本当か? じゃあ卒業したら理央の専属料理人として雇ってもらおうかな」
「悪くないね」
理央はクスクス笑う。
「君の手料理を毎日食べられるなんて最高だ」
「ハハッ、流石に褒め過ぎだろ」
「お世辞じゃないさ」
「はいはい、その手にはもう乗らないぞ、さっき散々からかわれたからな」
「おや、残念」
まったく、小悪魔め。
たまにちょっと意地が悪いのも理央の魅力だよな。
飯を食い終わり、コーヒーを淹れて、少し寛いでから片付けを済ませた。
薫がいた頃は世話されるばかりだったが、俺は世話を焼くのも結構好きだ。
特に理央の世話なら喜んで焼かせてもらう。
むしろ婿じゃなく嫁に立候補するべきか? それなら枠があるかもしれない、妾でもいい。
「健太郎、そろそろ行こうか」
「おっ、そうだな」
「家の車を呼んだ、君も乗っていくといい」
「サンキュー、助かるぜ」
理央と一緒に家を出ると、門の外に黒塗りの高級そうな車が停まっている。
いつもながら庶民的な住宅地に見合わない存在感だ。
運転手さんが開けてくれたドアから乗り込み、間もなく車は滑るように走り出した。
うーん、乗り心地も我が家の車と段違いなんだよなあ。
「なあ理央、このまま二人で登校したら、奴を刺激すると思うんだ」
「そうだね」
「だから俺、放課後まで保健室にいるよ」
「えっ、いや、だが」
「お前は奴が俺を殺しに来ないよう見張っていてくれ、な?」
「そうか、分かった、すまない」
謝らなくていいって言ってるのに。
あの野郎は動機や行動から察するに、理央には危害を加えないはずだ。
だから俺は放課後まで身を隠す。
そして改めて奴と対決しよう。
いきなり剣を振り回すような危険極まりない野郎だからな、周りへの被害も考慮した上でそれがベストだと思う。
「それでは、こちらも用意が整い次第連絡するよ」
そう言って理央は溜息を吐く。
「二度と君に手出しさせない」
「おう」
「誤解が解ければ、あいつも流石に思いとどまるはずだ」
「だといいが」
不意に肩にポスンッと重みが乗る。
り、理央が、凭れ掛かってきたんだが!?
うわぁ柔らかい、温かい、いい匂いがするぅッ!
ふぉ、ふぉおおおおッ! ドキドキする! ドキドキするッ!
「困ったものだね」
ぽつんと聞こえた声に、スッと興奮が収まっていく。
理央も迷惑してるよな。
また俺絡みのいざこざに巻き込まれて、あの時と同じだ。
苦労ばかり掛けている、もっと俺がしっかりしていたら、なんて、こればかりはどうしようもない状況だ。
もどかしい。
いつか理央に恩を返せるだろうか。
この想いも伝えたい。
―――初めての本気の恋がこんなに試練まみれだなんて、おのれ、神様め。
一体俺の何を試したいんだ。
やがて車は学園に到着した。
校門の前で理央と別れて、そのまま真っ直ぐ保健室へ向かう。
保険医の先生はいつも俺達生徒の気持ちに寄り添ってくれる、話の分かる優しい人だ。
訳を言わなくても放課後までいさせてくれるだろう。
「すみません」
横開きのドアをカラカラと開くと、机で書き物をしていたらしい白衣の背中が振り返って「あら、どうしたの?」と尋ねられた。
「その、暫く居させてください」
「あらあらまあまあ、仕方ないわねえ、奥のベッドを使いなさい」
この包容力、たっぷりとしたボディと相まってバブみがオギャってさく裂しそうだ。
有難く奥のベッドに潜り込むと、保険医は目隠しのカーテンを引いてくれる。
「先生、お仕事していますからね、静かにできるなら好きなだけいていいわよ」
「有難うございます」
「ゆっくりおやすみなさい、お大事に」
マジで感謝します。
目を瞑ると、今朝が最悪な目覚めだったせいか急に眠気が襲ってくる。
ああ眠い、普通に眠りそうだ、放課後の対決に備えてこのまま休んでおくか。
今頃、理央はどうしているだろう。
心配だな、何もなければいいが。
それにしてもあの転校生野郎め。
お前に殺された恨み、絶対に許さんぞ。
無かったことになっていても俺はループして覚えている、その事実を突きつけたりはしないが、あの時の痛みは倍返しだ。
覚悟しておけ。
―――はたと目を開ける。
ん、寝ていた、今何時だ?
ふとメロディが聞こえてきて、ベッド脇に置いたバッグを探って携帯端末を取り出す。
理央からだ。
メッセージを確認すると、起き上がってベッドを降り、目隠しのカーテンを開けた。
保険医の先生がいない。
まあいい、取り敢えずお礼のメモを残して、と。
さて、行こう。
呼び出されたのは、別棟にある工作室だ。
放課後にあの教室を利用する部活は確か無かったはず。
別棟自体が特別教室ばかりで普段からあまり人気のない場所だから、多少派手にやり合ってもすぐ騒ぎにはならないだろう。
ドアの前に立って深呼吸した。
今度は殺されないぞ。
感情的になるな、まず理央に言われた通り誤解を解くんだ。
よし。
気合いを入れて、勢いよくドアを開く!
いた、理央!
そしてその隣には、あの野郎ッ、転校生!
よくも殺してくれたな、お前だけは絶対に許さん。
「ほう」
奴は不快そうに顔を歪める。
俺もてめえのツラなんざ二度と見たくなかったよ。
初っ端から険悪な雰囲気を感じ取ったらしい理央が「健太郎」と気遣わし気に呼び掛けてくる。
「来てくれて、その」
「理央! 斯様な輩に気遣いなど無用、下手に出るな!」
「やめろ阿男、彼は僕の友人だ、お前こそ無礼な態度を取るな」
叱られてやんの、アホめ。
転校生は「友人」と片眉を吊り上げ、フンと鼻を鳴らす。
「どこをどう見ても矮小で下衆なケダモノを友などと、お前はやはり腑抜けてしまった」
「阿男!」
「かつてはあれほど気高く、美しく、何者をも寄せ付けなかった高貴なお前が、実に嘆かわしいことだ」
「愚弄するな、僕にも彼にも失礼だ」
「いいや言わせてもらう、そも下々の学び舎などに籍を置くこと自体嘆かわしい! 高貴なる身を斯様に貶め何とする? 御父上が理事をなさっている所以かとやむなく理解したが、結果お前は俗にまみれて俗に染まり、おのれの貴き本質を見失った挙句、そこなる下賤の輩に誑かされ心身共に怪我されてしまった! 悽愴極まりない、なんと愚かな、俺は腹が立って腹が立って仕方ないのだ!」
クソ野郎は「理央よ!」と更に続ける。
「その身を下卑なる俗物へ差し出したること、恥と思わんのか!」
「いい加減にしろ!」
理央が怒鳴り返すが、野郎はろくに聞いていない様子だ。
「故に、俺が来た、お前の目を覚まさせてやる、その為にあれを排除する」
奴は自分に酔ってでもいるのか? 目がイッてるな。
しかし改めてどういうキャラだよ、聞いてるこっちがいっそうんざりしてくる。
まあいい。どうでもいい。
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