第11話 王冠と転校生 5/前

「おい、お前!」


呼び掛けるとハッと振り返った理央が慌てた様子でフルフルと首を振った。

可愛いな。

いや、止せって意味だな? 了解。

まあ本音は今すぐブン殴ってやりたいが、ここは理央の顔を立てよう。


「あーその、なんだ、まず名を名乗れ! 話がしづらい!」

「下賤の者に名乗る名など持たぬ」

「あっそう、つまり名無しってわけか、だったら俺が適当につけてやる、これからは有り難く名乗れよ」

「黙れ下郎! 磐梯 阿男だ!」


あるじゃないか、名前。

前回と違って奴とはこれが初対面だ。

ループ前では担任が黒板に名前を書いたような気がするが、男の名前如きいちいち覚えない。


「磐梯ね、憶えてやるよ、光栄に思え」

「貴様ぁッ」


吼える転校生の隣で、理央まで俺を睨む。

刺激するなって雰囲気だ。

いかん、このままでは俺まで叱られてしまう、落ち着け、落ち着け。

まず誤解を解くんだったな、話をそっちへ持っていこう。


「で? 俺を目の敵にする理由を教えてもらおうか」

「こうして貴様と向かい合い、口を聞くだけで反吐が出そうだ、己の犯した大罪を理解すらしていないとは、万死に値する」

「初対面でろくに名前を名乗れず、訳を聞いても説明できない、お前は本当に高校生か? 流石に受け答えくらいはまともにしろよ、知能の程度を合わせてやるこっちの身にもなりやがれ」

「貴様ぁッ! 俺まで愚弄するか、この痴れ者めが!」

「だから訳を答えろって言ってんだろ、俺に喧嘩を売った訳を!」


睨み合う俺と奴の傍らで、不意に理央が溜息を吐いた。

心底疲れ果てた様子だ。

―――もしや、俺のせいでもある?


「もういいだろう、阿男」


振り返った転校生野郎、いや、磐梯に話しかける。


「繰り返すが誤解だ、僕と彼はお前が勘ぐっているような関係ではない」

「理央!」

「僕達は友人だ、何度言えば理解する」


「そうだぞ!」と俺もすかさず合いの手を入れる。

いずれ親密な関係になる予定だが、今のところは手を繋いだり、一緒に飯食ったりする程度の仲だ。

キスさえしていない、エッチなことは当然まだだ。


「俺と理央はなあ、互いに気の合う親友だ、大体男同士だぞ! いい加減にしろ!」


不意に磐梯が妙な表情を浮かべた。


「男?」


ゆっくり理央を見て、俺を見てから、おもむろにバカにするような顔で鼻を鳴す。


「なるほど、そういうことか」


なに一人で納得しているんだ、気持ち悪い。

つくづく会話の成り立たない野郎だな。


「おい下郎、気が変わった、貴様に一度だけチャンスをやろう」

「あ?」

「確かに俺は誤解していたようだ、フッ、実に下らぬ」

「何のことだ、オイ」

「近く、この学び舎にて大規模な祭が行われるそうだな」


祭って、文化祭のことか。

なんで急にそんな話題が出てくる。


「その祭において、学内にて最も優れたる男に王の称号が与えられると聞いた」


今度は紅薔薇王の話。

―――『紅薔薇王クリムゾン・キング』とは。

毎年の文化祭における目玉イベントの一つで、非公式の投票にてその年の王を決める、いわゆるミスコンだ。

このミスコンが意外に侮れず、歴代の紅薔薇王クリムゾン・キングに選ばれた野郎はもれなく何らかの分野で華々しく脚光を浴びている。

だから非公式といえども実績の伴う、割と伝統ある行事でもあるんだよな。

実は俺も去年狙ったんだが、今年はまったく興味無し。

大勢の称賛よりもっとずっと欲しいものを見つけちまったからな。


「その王の座を、俺と貴様で競うとしよう」

「はい?」


マジか。

あれは何気にハードル高いぞ?

立候補無しの無記名投票で行われて、大勢がそれぞれの思惑で誰かしらを選んだり、選ばなかったりすることもある。

学園祭参加者に一人一票として専用の用紙が配られ、譲渡は禁止、投票会場には公平を保つため担当の係が常駐する徹底ぶりだ。

そして票がばらけた時はミスコン自体の開催が見送られる。

つまり、割と厳粛に行われる投票で、当日に過半数の支持を得られなければ、紅薔薇王クリムゾン・キングに選ばれないということだ。


それを転校してきたばかりのこいつが俺と競う?

ひょっとして具体的な仕組みを知らず、『王』なんて印象と雰囲気だけで勝負を持ちかけてきたのか?


「どうした?」


磐梯はニヤリと俺を見下すような笑みを浮かべる。


「己が矮小なるを省み、我には到底敵わぬと臆したか」

「いや、お前さ、本当にその勝負方法でいいのか?」

「無論」

「ふーん」


だったらそれでいい。

俺はフェアネス精神を大事にする方だが、敵に塩を送るほどお人好しでもない。

お前に『分からせ』てやるよ。

後から気付いて泣きを入れても聞いてやらないからな、精々吠えづら掻いておけ。


「分かった、いいぜ」

「ほう、虫けらにしてはよい覚悟だ」

「俺が勝ったら、二度と俺と理央に関わるな」


磐梯は不愉快そうな顔で「よかろう」と頷く。


「では、俺が勝利した暁には」


言いつつスラリとまたどこからともなく剣を抜いた。

だからそれ! どうやって、どこに隠し持ってるんだよ、危ねえな!

そもそも日本じゃ銃刀法違反だぞ、知らないのか!?


「その命、貰い受ける」


この、過激派め。

お前如きにまた殺されてたまるか。


「磐梯、男だったら正々堂々、騙し討ちナシの真っ向勝負だ、いいな? 卑怯な真似はするなよ?」

「ふん! 雑魚がぬかしおる」

「どうなんだオイ、この条件が飲めないなら、俺も相応の手段を取らせてもらうぞ!」

「よかろう! 貴様に格の違いを思い知らせてくれる!」

「おお、その言葉忘れんなよ?」


これでよし。

裏工作なんてこすっからい真似はさせないぜ。

理央も見ている前で約束させたからな、流石に反古にはできないだろう。

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