第8話 王冠と転校生 2

シャワーを浴び終え、風呂場から出たところでパンツすら持ってきていないことに気付いた。

仕方ないからフルチンで部屋へ向かおうとすると、来客を告げるチャイムが鳴り響く。

うッ、きっと理央だ。

でも今の俺は裸、けれど外で理央を待たせるわけには、ううッ、やむを得ない!

腰にササッとタオルを巻いて、小走りで玄関へ向かう。

見苦しいのは勘弁してくれ、同じ男だ、男の裸くらいどうってことないだろ?


「いらっしゃい!」


ドアを開くと案の定理央がいた。

ああ、今日も綺麗だ。

荒んだ心がみるみる浄化されていく。


「あ」


ふと理央が目を丸くする。

それより少しだけ早く、俺の腰からタオルがはらりと滑り落ちた。


「落ちたよ」

「わッ、うわっ! わぁあああぁぁあぁああッッッ!」


み、見ッ!

股間を隠して駆け出しながら「上がってくれ!」と叫ぶ!

パンツパンツパンツッ!

恥ずかしいッ、嘘だろ、死ぬ!

―――い、いや? 待て、そういえば理央も男だ、俺と同じものが付いているはず、別に隠して逃げる必要なかったんじゃ。

理央の、チン……。

のあああああッ! やめろッ、想像するなッ、とにかくハレンチを詫びろ! 理央すまん、朝っぱらから卑猥なものを見せつけてしまって誠に申し訳ない!


部屋でしっかりパンツを履いて、ついでに制服も着た。

落ち着いたら段々とショックの方が勝ってきて鬱だ、何やってるんだろう、俺。

理央にどう思われたかな。

心配して来てくれたのに、バカな真似をするバカな男だと呆れたよな、きっと。

殺された以上に辛い、情けな過ぎていっそ泣けてくる。


二階の部屋から階下へ降りて、リビングに向かう。

上がってくれ以外何も言わなかったのに、理央はリビングのソファにきちんと腰掛けて俺を待っていた。

うう、行儀がよくて可愛い。


「やあ」

「おっ、おはッ、ハハハッ!」


気まずい。

取り敢えずお茶でも淹れよう、平常心だ平常心。


「その、先ほどは大変見苦しい姿を晒してしまい、誠に申し訳なく」

「気にしていないさ、そう落ち込むな」

「お、おう」


気遣われてむしろ居たたまれない。

穴があったら入りたい。


「それより健太郎」


お茶を淹れたカップを二つ持っていくと、理央は俺を見上げて、悲しげな表情を浮かべる。


「すまない」

「もういいって、やめろよ、お前は悪くないんだから」


ソファの手前にあるローテーブルにカップを置いた。

理央の隣に座って、背中を軽くポンと叩く。


「しかし、僕の身内が犯したことだ」

「そこなんだけどさ、俺は理央とあのクソ野郎を同列に見るつもりは全くないから、マジで気にしなくていいぜ」

「健太郎」

「理央も災難だよな、身内がとんだトラブルメーカーで」

「阿男はかつて、僕の婚約者候補だったから」


は?

今、なんて?

理央も目を見開いて固まる。


「婚約者?」

「い、妹のだよ」

「妹?」

「ああ、僕には四つ下の妹がいて、阿男はその妹の婚約者候補だった」


な、なーんだ!

言い間違えただけか、あー驚いた。

男の理央に男の婚約者なんてありえないもんな、それがまかり通るなら俺だって立候補するぞ。

でも、理央に妹がいたのか。

いいなあ妹、間違いなく可愛いだろうな、いや美人かもしれない。

今後の理央との付き合いも踏まえて、是非一度ご挨拶させていただかなくては。


「その妹さんとの関わりからお前とも面識があって、俺を殺しに来たってわけか」

「恐らくは」

「何でだ?」

「阿男は僕を気に入っているようだから、君に嫉妬したんだろう」


なるほど、やはり敵。

排除するしかない。

同じ相手を好きになった者同士、分かり合えるだろうなどという生ぬるいことを俺は言わない。

それに奴は既に仕掛けてきたからな、徹底抗戦だ、身の程を思い知らせ追い払ってやる。


「それで、その、僕から提案というか、君に頼みがある」


理央は俺を伺うようにしながら話を切り出す。


「阿男と話をしてもらえないだろうか」

「えっ?」

「あいつは思い込みは激しいが、話の分からない奴じゃない」

「それ本当か?」


流石に理央の言葉でも信用ならないぞ。

問答無用で斬りかかってくるような奴が話し合いのテーブルに着くのか?


「場は僕が取り持とう、君にも危害を加えさせない」

「でも」

「大丈夫、阿男は僕に逆らえないから」


それって本家と分家とか、そういうパワーバランスの話ってやつか?

遠縁って言ってたしな。

でも抑止力になるんだろうか、頭に血が昇ったらお構いなしにやらかしそうな野郎だったぞ。

分別が付くとは到底思えない。


「頼む、健太郎、僕はあいつの誤解を解きたいんだ」

「誤解?」

「ああ、その」


歯切れが悪くなる理央に、また嫌な予感が胸をよぎる。

奴のために誤解を解きたいって理由じゃないよな?

二人の関係が悪くなるから、俺に協力してくれなんて言わないよな、理央?


「僕が、君に誑かされたと、そう思われているんだ」

「は?」


誑かす?

誰が、誰を?


「つまり、君に手籠めにされたと、そう」


んなッ!

な、な、な、なんだってええええええええッ!!!!!


ンなことあるわけないだろおおおおおおおッッッ!!!!!

こちとらキスすらまだだぞちくしょおおおおおおおおッッッ!!!!!


つまり!

奴は、理央と強引にエッチな関係を持った俺を成敗しに来たつもりってことか!

俺をとんでもないスケベ野郎だと思っているってことか!


クソクソクソクソクソッたれええええええッ!!!

とんでもない野郎だ、俺だけでなく理央にまで失礼だ、許さん! 絶対に許さん!

俺達はまだ清い関係だし、それにエッチは段階を踏むって決めているんだ!

それをよくも、恥を知れ! あの野郎、八つ裂きにしてやる!


「しかしそれは誤解だ、そうだろう?」

「当たり前だ!」

「ああ、僕らの関係は共に苦難を乗り越え培ったまっとうな絆だ、互いを想い合う対等なものだ」

「り、理央!」


お前からそんな風に言ってもらえるなんて!

俺は果報者だ、有難う、理央!


「だから、まずその誤解を解きたい」

「分かった、そういうことなら協力するが、奴に俺達が親しくなった経緯を説明する必要がないか?」

「そうだね」

「ループのこと話すのかよ、信じてもらえるのか?」

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