スキルを使ってみよう。そしてファーストコンタクト

「じゃあ食べ物と飲み物」


 いま欲しいモノで思い浮かんだのがそのふたつだった。森の中だし、探せば食べられるモノや水場はあるだろけど、ここ異世界なんだよね……水はきれいな湧水を探せばなんとかなっても――あ、ダメかも。咲耶が潮の匂いがするって言ってたし、海が近いなら湧き水微妙かも……距離によっては塩混ざってそう。川の水だって下流になるだろうから、見た目問題なくても飲む勇気はあんまない。


 食べ物も木の実等は咲耶の鑑定スキルでチェックすれば大丈夫そうだけど、食べて問題ないのと味がいいかは別問題だもんねぇ……。咲耶の鑑定スキルってどこまでわかるんだろ?


「わかった、えっと……付き人スキルを使うには欲しいモノをイメージすればよさそうだから――えい♪」


「おーっ」


 咲耶の手に現れたモノに感嘆の声を漏らしてしまう。コンビニのおにぎり(ツナマヨ)とペットボトルの緑茶。どっちも私が好んでよく買っているモノだった。ありがたく受け取りつつ、私の分しかないことに気づく。そっか、あくまでアイドルである私が望んだモノなのか……。つまり私がふたり分望めば咲耶が欲しいのも生成できるってことよね?


「何かを――たぶんこれが魔力だと思うんだけど……使った感覚はあるけど、あんまり減った感じしないかな? 他にも試してみよ?」


「そうねー……なら咲耶の分の食べ物と飲み物。それと座るためのレジャーシートと服は? 森の中歩くのに着替えも欲しいかな、ふたり分」


 言ってから気づく。服よりも靴を頼むべきだったかも? でも私はショートブーツだし、咲耶もシンプルなスニーカーだから別に問題ないか。記憶にないけど、家を出るときにハイヒールなんかを選ばなかった私ナイスだ。


「わかった――ほい♪」


 現れたのは1畳サイズの水玉柄のレジャーシート、おにぎりとお茶がもう1セットに体操服と上下の長ジャージが二組。ジャージの色は緑と赤で、体操服は白Tシャツに紺のハーパン。それらがシートの上に置かれている。おにぎりとお茶がちゃんと服類の上に置いてあるのを見るに、咲耶が出す場所と順番をコントロールしてるのかな? あと、私が望んだモノの範囲内なら割と自由度が高そうなことも判明っと。咲耶の意思もだいぶ反映されてそう。


「咲耶、何故に体操服とジャージ?」


「このあと森の中を歩くのはもちろんだけど、このまま野宿になる可能性高いよね? 体操服とジャージなら別に汚れても平気かなって。温度調整も楽だし、汗かいても問題なし。パジャマ代わりにもちょうどいいと思うよ?」


「確かに……」


 大学生になって体操服かぁ……と普通なら思うかもだけど、私はアイドルのダンスレッスンのときにもあえて体操服っぽい練習着を着てたから平気で受け入れられるどころか、むしろ気楽で助かる。咲耶に関しては「超絶かわいい女子高生です☆体操服とかダサくて無理ぃ~」って空気を纏っておきながら、家ではジャージで過ごすタイプだ。ここでも切り替えのよさが現れている。そりゃいまの状況じゃ体操服とジャージを出してくるよなと。


「でしょ? 夜は気温が下がるかもしれないし、寒いときは追加で上着を――あ、寝袋とかでいいのか。ふたりで入れるやつにすれば一緒に寝られるね♡」


「同じ寝袋とか密着度がとんでもないことになるでしょうが!! 絶対に嫌だから!!」


 うちの妹は絶対に脚の間に膝とか入れてくるし! 断言してもいい!


「仕方ないなぁ♡今晩は諦めるよぉ♡」


「明日以降も諦めなさい!!」


「そこは要相談ってことにして……もう少し試してみない? 魔力を使う感覚に慣れておきたいなと」


「なら魔法は? 勇者っていうんだから使えそうじゃない?」


「うん。勇者スキルの効果が、常に身体強化、魔力量と回復量のアップ、闇以外の全属性の魔法使用可能ってなってるから使えると思うよ? 魔法の使いかたも、自分のスキルを鑑定したらわかったから大丈夫」


 え? なにそのチート……。


「ちなみに残りの闇属性魔法だけど……わたし、病み少女ってスキルも持ってるからそっちの効果で使えるみたいだよ? 闇と病みをかけてるのかな?」


「あは、は……」


 病み少女……そんなスキルもあるんだ? なんかどちらかというと称号って感じがするけど……闇魔法が使えるようになるからスキル判定なの? そのうちわかるかな? 


 それにしても……病み少女って響きが不穏すぎない? 私に対する想いに比例して情緒がおかしくなったりしないよね? 怖いんだけど!?


「でもこれだけ露骨なデメリットあるんだよね……愛する人物への気持ちが強いほど情緒が不安定になる。その代わり戦闘能力アップだってさ」


「あー! あー! 私は何も聞こえなーい!!」


 私の表情から考えていることを読まないで欲しい! お互い様なんだろうけど!!


「思ったんだけど、わたしのスキルと称号がフルで効果を発揮したときってどんだけ戦闘能力上がるんだろうね?」


「……戦争のある世界で私を守れるくらいに、じゃないの?」


 自分で言っててアレだけど! 妹に守ってもらう前提なのが姉としてどうなの!?   って感情も抱いてるけど、この世界に来た理由を考えると仕方ないと自分に言い聞かせるしかない。


「だねー。勇者スキルには自己再生の効果もあるから、遠慮なく盾にしてね」


「…………なるべくそうならないことを祈ってるわ」


 いやだから姉としてそれはどうなの……? しかも咲耶は躊躇なく私の盾になるだろうし。


「魔法……森の中で火とか問題だよね……初めてだし、コントロールミスったらマズいことになりそう……でも風魔法もなぁ……」


「咲耶? どうして風魔法で私を見たか教えてくれる?」


 悲しいことに想像つくんだけどね!! だって私の下半身を見たからね!? この妹!


「……お姉ちゃんがスカートならなぁって思っただけだよ? 下から突風でも吹かせてあげるのになぁって♡」


 バレてるのを理解してるから咲耶も正直に教えてくれた。その内容は予想通りだ。ほんとなんちゅう妹なんだか……。ため息を我慢できなかった私は悪くないと思う。


「風魔法は禁止で」


「なら水魔法にしようかな」


「いいんじゃない? あと私を狙うのも禁止で」


 私がいま着てるシャツは白色だから、濡れたら普通に透ける。先に言っておかないと馬鹿咲耶はやりかねない。着替えも用意してあるし、私がキレるのを覚悟で狙いそうだ。


「ちっ、バレたか」


「見た目はかわいいんだから舌打ちとかやめて」


「かわいいって言ってくれたぁ♡ そんなわたしが舌打ちとかギャップ萌えしないのぉ?」


「これっぽっちもしない」


 って言ってるでしょうに……性格はかわいくないから。


「ちぇー……まぁいいや。適当に水球でも撃ってみるね」


 咲耶が右手を銃みたいな形にすると、その人差し指の先に拳大の水球が生まれた。


「おー」


 ほんとに魔法が使えてる……こうやって目の前で見ると普通に羨ましい……アイドルスキルじゃ魔法は使えなそうだし……いいなぁ……。


「しゅーとっ」


 表情まで決めちゃってノリノリじゃん……気分は魔法少女って感じ? そんな咲耶だけど、特にターゲットは決めずに撃ったらしい。木々の間を飛んでいく。


「へー、軌道も変えられるんだ」


 木に当たりそうになると、クイッ、グインって感じで軌道が変化する。初めてなのに器用よねー……素直に感心してしまった。この娘、ぱっと見鈍そうなのに運動も勉強も平均以上にできて要領いいのよね。その一面が遺憾なく発揮されていた。


 水球が大きく軌道を変えて、周辺で1番太い木を回り込んでいき―― 


「うにゃあああああ」


 ――悲鳴とともに女の子が飛び出してきた。水球は女の子を追い回すような軌道になっていて――振り返った彼女の胸元に当たってしまった。その場でペタンと座り込んでしまう女の子。


「やっば!? 人が居ると思ってなかった! ごめんなさい!!」


「すみません!! 大丈夫!?」


 慌てて謝りながら駆け寄る私たちを、怯えたように見上げる女の子の頭の上には――大きなウサ耳が生えているのだった。

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最弱魔王軍に保護されてアイドルやってます!~一緒に送られた義妹はヤンデレ勇者~ 綾乃姫音真 @ayanohime

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