取り調べ室より…佐々木甚爾

 くそっ!なんなんだよこいつは。

目の前に座る殺人犯を前に俺は心の中で悪態をついていた。刑事歴10年こんなタイプのやつは初めてだ。取り調べ室に入ってから一度も動揺していない。どんな揺さぶりも聞かない…こいつに感情はあるのだろうか。

ニコニコと笑い目の前に座っている30代前半の男は神野進。垂れた目に整えられた前髪。その見た目とは裏腹に、ここに暴行罪でいれられている。

「なぁ、神野お前がやったんだよな?」

神野は笑みを崩さずに答える。

「刑事さん。何度も言ってるじゃないですか。僕じゃないんですって。というか犯行の記憶なんてないです。もし僕だとしたら…誰かに脅されてたんじゃないですか?」

こいつはどんな質問をしようがこの姿勢を崩さない。そもそも暴行というよりは喧嘩に近かったなのに脅されたはおかしい…ただこいつの目にはそれを信じさせる不思議な力がある。

「別に仲良くしようとは思ってないけどさ、一応動機とかも聞きたいんだよ?俺は。お前のやったことにも理由があるんだろ?話してくんなきゃわかんないよ。」

共感は取り調べの手立ての一つだ。

大抵の殺人犯は承認欲求で固まってる。少し誘導して共感すればすぐに落とせる。だがこいつは違う…

「動機ですか?さぁ、なんなんでしょうね。覚えてないって言ってるじゃないですか。教えてくださいよ。刑事さん」

犯行を認めない上に警察に捕まった時に頭を打ち記憶はないという。

だが名前と年齢だけは覚えてるときた。

ムカつく男だ。本当に。

「佐々木だ。」

「佐々木さんですか。名前を聞けて嬉しいです。」

本当にそうは思ってないのだろう。いちいちムカつく野郎だ。

「ねぇ、佐々木さん。僕が減刑されることってないですか?」

「はぁ?お前やってないって言ってたじゃねぇか」

「暴行はしてないですよ?ただ…別のことをしたんですよ。そろそろじゃないですかね」

その時、若い警察官が焦って取り調べ室に入ってきた。報告内容は"30代男性の死体が発見された。殺人と思われる"

偶然だよな。落ち着こうとして肩を回す

「人が、死にましたね」

肩の動きはその一言に止められる。なんで知ってんだ。口に出してないよな?

「佐々木さん今、"なんで"って思いましたね?」

神野は今まで崩さなかった笑みを崩し、満面の笑みを浮かべてこう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る