人間

毒牡蠣

静かな街より…高野瑛人の記憶 七月二日

夜、静かな街をたった一人ぎこちなく歩く青年

「あぁ、くそっ!足いてぇ」

ドロドロになった片側の靴を持って、そうぼやいてみるが誰も助けてくれない。…助けたくもねぇよな、こんなやつ。でも、俺だって最初からこうだったわけじゃない。最初は"あいつら"とも仲良くやってた。

 今俺は学校でいじめられてる。靴を隠したり教科書を破いたりだ。俺は昔から全てが人に劣っていた。運動も勉強も。まぁいじめたくもなるだろうな。こんなやつ。

いじめはだんだんとエスカレートしていく。俺の場合も例外じゃない。服を剥がれて写真を撮られて…好きな子にその写真を送られた時は死のうと思ったよ。だけど木に縄を括ってもビルの屋上に立っても俺の足はすくんで動かなかった。

 今日は靴を泥に突っ込まれるだけで済んだけど明日は何されるかわからない。

なんで生まれ持ったものが違うだけでいじめられなきゃいけないんだ?いじめっ子はガタイもでかいし頭もいい。そのうえ運動もできるときている。そりゃみんないじめっ子につくだろ。努力すりゃ勝てるってか?じゃあお前らナイフ持った強盗に素手で勝てるってのか?無理だよ。俺には何もできねぇ…できることといえば"あいつら"が死んでくれることを願うことだけだ。

 自重の笑みを浮かべながらそう考える。

あぁそうだ。前から歩いてくるあの男。あいつが稀代の殺人鬼で全部ぶっ壊してくれりゃいいのに。そんな妄想をしながら男とすれ違う。

その瞬間の腹の痛み、男の笑った顔。

…俺の記憶はそこで途絶えた。

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