第4話第一帷 詩 底のうた

世界よ、
引く手を持たぬふりをして、
それでも――
底をつくってしまうものよ。

「ここには在(あ)るものを集めておきたい」
その一念が、
水より先に、
静かな窪みを生む。

落ちる者は、罪ではない。
低いからでもない。
ただ、
抱え込み井戸として
名もなく優先された――
そのしるし。

井戸の底には、
責めも、赦しも、
祝福も、悔いも、
区別なく沈む。

そして沈みの中心に、
小さく光る粒がある。
誰にも無視できぬ一点。
世界と生命が、同時に頷いた
《実点》の灯(ともしび)。

重いものよ、
ここで砕けず、
ここで溺れず、
ただ一度、形を得よ。

底は終わりではない。
底は倉。
倉は抱擁。

いつか、
持ち出せるだけの風が整ったなら、
あなたは上へ――
沈黙ごと、光ごと、
自分の物語として。

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