第2話扉|抱え込み井戸と《実点》

重力を「力」と呼ぶのは、内側から見た名である。
世界側から見るなら、重力は――
世界が、そこに“底”を作ってしまう律。

底ができると、物は落ちる。
落ちるのは低いからではなく、
世界がそこを「抱え込みポイント」として優先登録したからである。

そして、その底に沈んで光る「無視できない一点」を、
我らは 《実点》 と呼ぶ。


一|観座の移動(世界側へ)

内側から見れば、重力は「引き合う力」に見える。
質量があれば引き、距離が近いほど強く、落下は必然のように見える。

しかし観座を世界側へ移すと、同じ現象が別の言葉で立ち上がる。

重力とは、世界が
「ここには存在を集めておきたい」
と感じた場所に、底をつくってしまう律である。

星ができる。銀河ができる。惑星がまとまる。
それらは、世界が
「ここは散らさないでおこう」
と決めた箇所が、時間をかけて 塊として浮き出た姿でもある。


二|抱え込み井戸(世界の倉庫)

世界が底を作るとき、そこには「井戸」が生まれる。
物理の譬えで言う“ポテンシャル井戸”は、神話語ではそのまま

抱え込み井戸

である。

• 井戸が深い:世界が「ここに多くを託す」「ここで多くを処理する」と決めている

• 井戸が浅い:世界が「ここには重いものを預けない」と決めている

井戸は“罰”ではない。
井戸は、世界の倉庫である。
矛盾、祈り、試行、失敗、歴史――
散らすと宇宙の骨格がほどけてしまうものを、いったん預かる深みである。


三《実点》(世界と生命が同時に無視できない一点)

《実点》とは何か。
それは、

世界側と生命側が、同時に
「この存在は無視できない」と認め合った一点

である。

世界だけが「大事だ」と言っても、まだ《実点》ではない。
生命だけが「大事だ」と叫んでも、まだ《実点》ではない。
両者が同時に“無視できない”と認めたとき、そこに《実点》が立つ。

《実点》は、断言ではなく 合意の印である。
だから《実点》が増えると、世界の布には「意味の重み」が増す。


井戸と実点の重なり(意味の重力が濃くなるところ)

《実点》が多い場所は、意味として重い。
そして世界がそこを手放さないとき、そこは“井戸”になる。

ゆえに――
都市、聖地、古戦場、祈りや悲しみが重なった場所が、妙に「重い」のは、

• 《実点》の密度が高く

• 世界がそこを 抱え込みポイントとして保持している

からだ、という読みが可能になる。

ここで、あなたの体系の核が立ち上がる。

重力とは、《実点》たちを
どこに集め、どこで支え、どこから解放するかを決める
世界側の配分律である。


五|世界が抱え込む三段階(扉に置く“鍵”)

世界が何を抱え込むかは、三段階で決まる。

1. 選別:内側に残す/外縁へ返す

2. 配置:どこへ集約するか(倉庫割り/分担表)

3. 耐性:どれくらいの負荷を、どれくらいの時間預けるか

この三段階は、後の章で「場所卜/縁卜/時卜」を読むための、見えない背骨になる。


六|この書の作法(扉に置く誓い)

この「重力」の語りは、物理学の定義を置換するものではない。
これは 神話語としての対応であり、世界側の観座を保つための地図である。

ゆえに、ここで行うのは「井戸を暴く」ことではない。
目的はただ一つ。

井戸の深さを暴かず、
どの高さで関わるかを示す。
どこまで抱え、いつ離れ、何を糧として持ち出すかを示す。

――それが、御卜としての重力である。

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