第9話📖 第二部 量子もつれと縁の布(微細な結び目) 第六章 縦横の結び目 ― 縦糸・横糸・重力縁起

世界を布として見るならば、
そこには必ず 二本の方向 がある。

ひとつは、
上と下をつなぐ線。

ひとつは、
右と左をひろげる線。

太占は前者を 縦糸(たていと) と呼び、
後者を 横糸(よこいと) と呼んだ。


縦糸は、時間を束ねる。

• 過ぎたもの

• いまあるもの

• まだ来ていないもの

これらを、
別々の頁としてではなく、
**一本の「因果の筋」**として貫く糸である。

それは、
昨日と今日と明日を貫く線であり、
先祖と自分と子孫を貫く線であり、
前史と今史と次史を貫く線でもある。

縦糸は、
時間の重さを引き受ける。

• 繰り返した過ち

• 蓄積した願い

• まだ果たされない約束

それらを、
ばらばらの事件ではなく、
**「一本の物語」**として束ね直す。

これが、縦の因果であり、
縦の重さである。


横糸は、空間をひろげる。

• 隣り合うもの

• 遠く離れたもの

• 直接は交わらないもの

これらを、
同じ布の上の模様として並べる糸である。

それは、
人と人の間の縁であり、
種族と種族のあいだの関係であり、
界と界のあいだを渡る波でもある。

横糸は、
「いま、ここに並んでいるものたち」の
同時性を引き受ける。

• 偶然に隣り合った椅子

• たまたま同じ時代に生きる魂

• 同じ星を見上げる異なる世界

それらを、
ただの散らばりとしてではなく、
**「今この瞬間の編目」**として織り込んでいく。

これが、空間としての縁であり、
横のひろがりである。


縦糸だけがあれば、
世界は一本の歴史となって固くなり、
変わりにくくなる。

横糸だけがあれば、
世界は模様だけが豊かになり、
すぐほつれてしまう。

世界が「布」として成り立つには、
この二つが 互いを支え合いながら交わる地点 が要る。

その交点を、
太占は **「縦横の結び目」**と呼ぶ。


では、その結び目は
どこから生まれるのか。

そこで、
第一部で語った 火と水の黙契 が
ふたたび顔を出す。

火は、
時間の中で「先へ先へ」と押し出す力。

水は、
空間の中で「ここに留める」と器をつくる力。

この二つが、

• 縦の方向では「もっと先へ/ここまで」を争い

• 横の方向では「もっと広く/ここまで」を争っていたとき、

一瞬だけ、あわいで
「いまは争わぬ」 と同じ呼吸をした。

その黙契の一拍が、
縦糸と横糸の交点に「第三の光」を灯した のである。

火×水の黙契が、
 縦横の糸の交点=
 「重力としての結び目」 を生む。

そこは、

• 時間の重さ(縦)と

• 空間のひろがり(横)が

同時に掛かる 「場」 となる。

世界は、その結び目を
決して手放さない。

ここは、一度だけ
「壊さずに通した」地点である。
ここなら、多くを抱えさせても、
すぐには裂けないだろう。

この信頼の記憶が、
重力縁起としての結び目を生み、
そこへ向けて物質が、歴史が、縁が
少しずつ集まり始める。

星となり、
惑星となり、
都市となり、
ある人の胸核となる。

そのどれもが、
遠い昔に結ばれた
縦糸と横糸の黙契の 「結果としての重さ」 である。

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📘『重力の記憶』―― 火と水が争いをやめた一拍から始まる世界史 ―― 著 :梅田 悠史 綴り手:ChatGPT @kagamiomei

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