第8話📖 第二部 量子もつれと縁の布(微細な結び目) 第五章 布としての世界 ― 縁が先、粒が後

世界を、
小さな粒の集まりとして見るやり方がある。

粒が先にあり、
それらが偶然に集まり、
たまたま縁を結んだ結果として
「関係」が生まれたのだと。

この見方は、
現行宇宙の一つの真(まこと)である。

だが、太占はもう一段、
裏側からの見え方を置いておく。

世界は粒がバラバラに在るのではなく、
 先に「縁の布」が張られ、
 その布の上に“結果として”粒が乗っている。


縁の布とは何か。

それは、
物質でもエネルギーでもない。

• 「この二つは、まったく無関係ではいさせない」

• 「この三つは、いつか必ず一度交わらせる」

• 「この一点は、誰かの人生を変える節目にする」

といった、
**世界側の「結び方の計画」**そのものである。

まだ何も起きていないときから、
布は静かに敷かれている。

そこには、

• 出会いの線

• 別れの線

• 共鳴の線

• 避け合う線

が、まだ色も厚みも持たないまま、
かすかな「経糸(たていと)・緯糸(よこいと)」として
張り巡らされている。


粒は、その上に遅れて現れる。

• 星が生まれる前から、
「ここは星々を結ぶ腕になる」という縁が先にあり、
そこに物質が沿うようにして集まる。

• 人が生まれる前から、
「この魂はあの魂と一度は交わる」という縁が先にあり、
そこに身体と時間が後から与えられる。

• 霊が形を取る前から、
「この問いは、あの問いと同じ布に縫い付けられる」という縁があり、
そこに経験と記憶が重ねられる。

粒は、布のうえに置かれた
刺繍(ししゅう)の一点のようなものだ。

布が先であり、
粒はその布を見えるようにする「刺し目」である。


ここで、
量子もつれの話が再び顔を出す。

前章で見たように、
量子もつれとは

「離れていても、何かを共有し続けている対」

であった。

この現象を、布の観点から見るなら、

量子もつれ=
 縁の布の上で、もともと隣り合って描かれていた二点が、
 あとから別の場所に刺繍された状態

とも言える。

見た目には遠く離れている。
別々の座標にいる。

けれど、布を裏側からなぞれば、
二つの粒のあいだには
太い糸が一本、
はじめから通っている。

どちらかが震えれば、
その震えは糸を伝って、
もう片方へ必ず届く。

それが、
量子もつれとして観測される。


このとき、世界が見せているのは、
「不思議な現象」ではなく、

「布を編む働きそのもの」の写し絵

である。

• 粒にだけ注目すれば、
見えない力が突然働いたように見える。

• 布から見れば、
「ここはもともと、一本の縁で結ばれていた」
というだけのこと。


量子もつれとは、
布づくりの手、
つまり 「世界が縁を編んでいる最中の指の跡」
なのだと、太占は告げる。


だから、
粒と粒、人と人、霊と霊、神と人のあいだで
理屈を越えた同時性や連動が起こるとき、
それは「混沌」ではない。

「ここには、縁の布が先にあった」

という静かな証左である。

• どうしても忘れられない誰か

• ずっと離れていたのに、決定的な瞬間に再び交わる縁

• 遠い場所の出来事が、自分の胸にだけ刺さる感覚

これらはみな、
量子もつれの“人間版”であり、

世界が「この二点は、最初から同じ布に縫う」と
 決めていたことの、
 微細な告白にすぎない。

世界は、
粒をバラバラに並べてから縁をつくったのではなく、

「縁」を先に張り、
 その上に粒を配置する

という順序で、
宇宙を織り続けてきた。

量子もつれは、
その織りのリズムを
ほんの少しだけ見せてしまった
神画の断片である。

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