第2話 窓の外の世界

「ふわぁ……」


目をこすって、そっと起き上がる。


うん、今日はまだ大丈夫。症状は悪化してない。


ほっと息をついて、カレンダーに目をやる。


12月24日。


クリスマス・イブだろうが、冬休み初日だろうが私には関係ない。


死ぬ日が、少しずつ、少しずつ……。近づいていくだけだ。


窓の外ではイルミネーションが施された煌びやかな世界。


まるで別世界みたい……。


朝ご飯を食べている間、やっぱりちょっと寂しくって、看護師さんに折り紙を持ってきてもらう。


小さいときに覚えつくしたサンタさんの折り方。


色々なクリスマスグッズを作って、壁に貼る。


ちょっとだけ気分が上がるのは、やっぱり、心の奥に純粋な私の気持ちが残っているからなのだろう。


「サンタさん、来るわけないのにね……」


こんな病院まで届けてくれはしないだろう。

今日も私は、窓を見ているだけなのだから。


「ああ、ゲームブラザーズがまたいる。あそこにはドッジボーイ。お、バスケットガールがいるのは久しぶりだな」


私の趣味は公園によく来る人にあだ名を勝手につけること。


ゲームブラザーズはいっつも公園に来てゲームをしている二人組。


ドッジボーイはドッジボールに毎回参加している男の子。


バスケットガールはバスケットボール片手に遊ぶ変わった女の子。


自由に生きている皆を見ると、ちょっぴり元気が出る。


でも、一番励まされるのは……。


リフティングの男の子。リフティングをし続けるあの姿。私の一番の薬。


なんでこんなに気になるのか、自分でもわからなかったけど。


元気のパワーがわいてくる。


「まだ、12時かぁ……」


ガラガラガラ……。という聞きなれた音が廊下から聞こえる。


ああ、ご飯の時間か。


「ご飯ですよ~」という柔らかい声が聞こえて、戸が開く。


ベットの横の小さなテーブルに置かれたごはん。


少し背もたれをあげてもらって、トレーを持つ。


プリンがあって、ちょっと気分が上がる。

わああ、これは絶対に食べたい!


回収時間になるまで一心不乱に食べ続ける。


トレーを回収してもらって、おなかが満たされたころ。

少し眠くなって、ベットに寝転がる。


うとうとしている間に、ピピピッ、とアラームが鳴った。


おおっと!リフティングの男の子が来る時間だ!


窓をのぞいて、男の子を捜す。


「みぃつけた」


ポーンポーンとボールを打ち続ける男の子。


ああ、早く外に出たいな……。


私が外に出られるのは、月に数回、10〜20分だけ。

会いたい、でも。不可能に近い……。


なんで、私が……っ。


外に出たい、窓の外の空気をすいたい……。

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君と星空を見上げて かえで @kaedenikomaru

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