第3話:男子の本懐

 四十七人は、目的地に行きついた。


 キール邸。

 バカでかい家だった。


 クラークが正門の前に立ち、拡声器を握った。

「邸内の諸君」

 彼は呼びかけた。


「われらは、アーサーの無念を晴らすために参上したガンマン四十七人である。本日はキール殿のお命を頂戴つかまつる。ただし、他に恨みある者はあらず。道を開ければ危害を加えることはない」


 挨拶が終わると同時に、カーターが正門に小型爆弾を仕掛けた。

 すぐに起爆。

 轟音とともに、正門が吹き飛んだ。


 ――こうして討ち入りが始まった。




◇◆◇◆◇




 四十七人は、

「お先に!」

「お先に!」

「お先に!」

 順々に門をくぐり、前庭へなだれ込んでいった。


 キールはきっと屋敷の奥の方にいるに違いない。


 四十七人は前庭をつっきって屋敷に向かった。

 ――が、バキューン、バキューン、銃弾が飛んできた。


 そう、用心棒が待ち構えていたのである。事前に得た情報によると、キールが雇ったイタリアン・マフィアどもだ。


 四十七人は木の陰などに身を隠し、応戦。

 激しい撃ち合いとなった。


 間もなく、

「おい、ブーツのひもがほどけているぞ!」

 誰かが叫んだ。


 ホリスだった。

 そして――それが合図だった。

 エイティらは一斉に、その場でうつ伏せになった。


 直後、ホリスのガトリング・ガンがうなりを上げた。

(おらおらおら! 二年間のストレスをいまこそ発散してくれるわ!)


 彼は撃ちまくった。

 用心棒どもは、あっという間に穴だらけになった。


 だがホリスは止まらない。

(おらおらおら!)

 屋敷の窓が割れる。壁が吹き飛ぶ。


 エイティは

「おい、ホリス!」

 慌てて声をかけた。

「もう十分だ! そんなに撃ったら弾がなくなるぞ!」


 ところがホリスは、

「何? 何だって?」

 すさまじい連射音のせいでよく聞こえないらしい。


 エイティは声を張り上げた。

「もう十分だって言ったんだよ! そんなに撃ったら弾が」

「え?」

「弾!」

 直後、音が止んだ。


 弾を撃ち尽くしたらしい。


 ホリスはぽきぽき、ぽきぽき、満足げに指を鳴らしながら、

「で、何だって?」


「……いや、いいんだ」

 エイティはウインクを送った。

「見事な銃撃だったよ」


 ホリスは

「だろ?」

 にやりと笑ってみせた。




◇◆◇◆◇




 屋敷に突入した四十七人。


 彼らは一部屋ずつ中をあらため、キールを探し、そこに用心棒がいれば撃ち殺していくわけだが、

「くそ!」

 エイティが舌打ちした。

「やりづらいことこの上ない」


 タッグを組むザ・リーフも

「まったくだ!」


 何しろ邸内には、無抵抗の使用人も少なくないのだ。彼らを誤射するわけにはいかない。

 かといって用心棒を相手に一瞬でも撃ち遅れれば、自分が死ぬ。

 難しい戦いだった。


 エイティとザ・リーフはドアを蹴破り、次の部屋に飛び込んだ。

 そこは応接室のようだった。


 部屋の隅にはメイドが一人。両手を上げ、抵抗の意思はないとアピールしていた。


 ――ん? メイド?

 たしかにメイド服を着ている。

 着ているのだが。


 エイティは顎を撫でた。

「角刈りのメイド、ねぇ……」

 そのメイドは角刈りだった。


 ザ・リーフもささやいた。

「おい見ろよ、あのすね毛。まるでワカメだぞ……」

 そのメイドのすね毛はほとんどワカメだった。


 ――そう、メイド服を着ていたのは、むさくるしいおっさんだったのである。


 エイティとザ・リーフは、一瞬で悟った。

 ははあ、こいつ用心棒だな。

 自分たちに勝ち目はない、このままでは皆殺しにされちまうとビビったのだろう、メイドに扮してエイティらの目を欺き、逃げ出そうとしていたわけだ。


 二人は、偽メイドに銃口を向けた。

 引き金に指をかけた。


 が、

「……多様性の時代だからなあ」

 エイティは首をひねった。

「角刈りだから偽メイドだって決めつけるのは、ちょっと乱暴すぎるか?」


「ふーむ、いいところに気づいたな」

 ザ・リーフがうなづく。

「言われてみればその通りだ。キール邸が髪型自由で、働きやすい職場だった可能性がある」


「となると、あの足もそうだ。もじゃもじゃすね毛のメイドがいちゃいけないって法はないだろ?」

「いよいよ働きやすい職場だ」


 そんな二人の言葉に、メイドはほっとした様子。

 露骨に肩の力が抜けた。

 そしてそのせいで、ごとり、拳銃が床に落ちた。エプロンの中に隠し持っていたものである。


 メイドは

「……うっ!」

 野太い声だった。


 エイティとザ・リーフは顔を見合わせた。

「――声は気にしない」

「ああ、声が太いメイドがいたっていい」

「だが銃はダメだ」

「そう、銃を隠し持っていたのはいただけない」


 二人は大きくうなずき合うと、ためらいなく引き金を引いた。

 メイドは脳漿をぶちまけて死んだ。


 薬室に新しい弾を込めながら、

「やれやれ」

 ザ・リーフは嘆いた。

「政治的に正しい射殺ってのも大変なもんだぜ」




◇◆◇◆◇




 用心棒は数こそ多いものの、じりじり、じりじりと追いつめられていった。

 そりゃそうだ。彼らは所詮はアウトロー。正規の訓練を受けた元保安官四十七人の敵ではない。


 中には

「見逃してくれ!」

 と命乞いする者もいたが、

「あいにくですがお客さま、当行では命のリボ払いは受けつけておりません」

 エイティらは容赦なく撃ち殺していった。


 やがて

「提案がある!」

 用心棒の親玉が言った。

「決闘を申し込みたい」


 クラークが応じた。

「決闘?」


「ああ。ガンマン同士、早撃ち勝負で決着をつけようじゃないか」


(「ガンマン」のひと言で、おれたちとお前らを一緒にしないでほしいんだがなあ)

 クラークは心の中で苦笑しつつも、

「いいだろう。決闘だ」


 ずらり、庭に四十七人の元保安官が並んだ。

 対するは、用心棒四十七人。


 要するに、四十七人同士が向き合って立っている。

 一対一の早撃ち対決×四十七である。


 風が吹く。

 落ち葉が舞う。

 微動だにせずに、睨み合う九十四人――。


 その場にい合わせたメイドたちがささやいた。

「……あの人たち、何しているの?」

「決闘ですって」

「決闘? さっさと撃ち殺しちゃえばいいのに……」

「本当よねえ」

「どうせ男のロマンってやつでしょ、男のロマン」

「あー、あれね」

「そうそう、あれよ」

「はあ、アホらし……」


 ほどなくして、ひらり、天から雪が落ちてきた。

 それが合図になった。


 全員が腰のホルスターに手を伸ばした。

 拳銃を抜いた。

 引き金を引いた――。


 どさどさ、どさり。

 数秒後、用心棒四十七人がその場に崩れ落ちた。


 一方、エイティら四十七人は銃口から立ち上る煙を

「ふっ」

 息で吹き飛ばすと、拳銃をくるくるっと回し、ホルスターに戻した。




◇◆◇◆◇




 用心棒は片づけた。

 屋敷の中はさんざん探し回った。


 が、肝心のキールが見つからない。


「あの野郎、どこかに隠れてやがるな」

「よーし、探し出すんだ」

「ふふっ、懐かしいな。まるでスカベンジャー・ハントだ」

「学生時代を思い出すよ」

 四十七人は大盛り上がりである。


 彼らが

「二人一組でいこうか?」

「待て待て。それじゃあ一人余っちまうぞ」

「なら三人一組で……いや、これも割り切れんな」

「おい、四十七って素数じゃねーか?」

 とわいわい相談していると、

「ねえ、おにいさんたち!」

 メイドである。


 彼女は言った。

「キールさまなら炭小屋の中だよ! あたし、隠れるのを見たんだ」


 その言葉に、

「……」

 四十七人はじとっとした目つきになり、肩をすくめた。


(せっかく盛り上がっていたのによぉ)

(これだから女ってやつは)


 四十七人は、メイドら使用人を屋敷の外に避難させた。

 それから、庭の角にあった炭小屋に爆弾を投げ込むと、彼ら自身もその場を後にした。


 間もなくどかん。

 炭小屋が木っ端みじんに吹き飛んだ。


 かたき討ちが終わった。




◇◆◇◆◇




 キールを討った後、四十七人は逃げ隠れすることなく、堂々と裁きを受けた。

 そして罪人として、アルカトラズ連邦刑務所に送られた。


 そんな彼らの胸元できらりと輝くのは――おお、大統領から授与された名誉勲章だ。


 大統領はメディアの前でこう語った。

「かたき討ちを認めることはできないよ。彼らは殺人犯だ。それは間違いない。だがしかしね、親分のために命をかけて戦った彼らの熱い想いを否定することはできない。あれこそアメリカン・スピリットじゃないか! フロンティア・スピリットじゃないか! 私は感動したねぇ!」


 この大統領は、翌年の選挙で大敗した。

 女性票を失ったからである。

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復讐なんだからしょうがないよねっ ~47人でかたき討ち~ 村上空気 @murakami-kuuki

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