第7話 選ばれる側へ

 その日は、不思議なほど静かだった。


 魔物の出現報告はない。

 依頼も、急を要するものが一つもない。


「……嵐の前、ってやつかな」


 ミナは街の外れ、草原に立っていた。

 見回りという名の、ただの散歩。


 ふと、足元の地面が脈打つ。


「……え?」


 地鳴りではない。

 もっと、内側から響く感覚。


 ステータス画面が、強制的に展開される。


【世界照会:実行中】

【対象:ミナ】

【役割妥当性:評価】


「……評価?」


 誰かが見ている。

 運営ではない“何か”。


 空気が、重くなる。


 視界が歪み、草原が遠のいていく。

 気づけば、ミナは何もない空間に立っていた。


 白ではない。

 黒でもない。


 ただ、広がる“存在感”。


『あなたは、何者ですか』


 声はない。

 だが、意味だけが直接届く。


「……初心者、です」


 即答だった。


『最強では?』


「違います」


『救世主では?』


「……なりたくないです」


 沈黙。


『では、なぜここにいる』


 ミナは、少し考えた。


「……困ってる人がいたら、

 見て見ぬふりができなかった」


 それだけ。


『あなたがいなくても、

 世界は回り始めている』


「……はい」


『それでも、あなたは必要か』


 胸が、痛む。


「……分かりません」


 正直な答え。


「必要なら、残りたい。

 でも、邪魔なら……」


 言葉が、途切れる。


『選ぶのは、あなたではない』


 その瞬間、理解した。


 これは裁きではない。

 追放でも、使命でもない。


 **選別**だ。


 世界が、ミナを“残すかどうか”を決めようとしている。


「……私、何も特別なことはしてません」


 声が、少し震える。


「最強なのも、バグだし。

 初心者なのは、たぶん本当で」


 それでも。


「……考えるのは、やめませんでした」


 空間が、わずかに揺れた。


『それが、評価対象です』


 視界が、反転する。


 気づけば、草原に戻っていた。

 風が吹き、鳥が鳴く。


 何事もなかったかのように。


 だが、ステータス画面に一行だけ追加されていた。


【状態:観測対象】

【判断:保留】


「……選ばれる側、か」


 ミナは空を見上げる。


 必要とされたいわけじゃない。

 残りたいとも、消えたいとも、言い切れない。


「……初心者には、難しすぎるなぁ」


 苦笑しながら、歩き出す。


 答えは、まだ出ていない。


 世界は今、

 彼女の“これから”を見ている。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ふらっと立ち寄ってもらえるだけでも嬉しいです。

今日も楽しんでもらえたら何よりです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

初心者だった私、ステータスバグで最強になる(続編) 塩塚 和人 @shiotsuka_kazuto123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ