第6話 管理されない世界

 異変は、静かに始まった。


 ギルドの掲示板に、不可解な依頼が紛れ込む。


【依頼内容:未確定】

【難易度:測定不能】

【発生条件:不明】


「……こんなの、前からあった?」


 受付嬢が首を傾げる。


「いいえ。表示自体、運営側の承認が必要なはずです」


 ミナは、その紙をじっと見つめた。


 嫌な予感がする。


 その夜、白い空間は現れなかった。


「……来ない」


 運営者からの呼び出しが、ない。


 代わりに、ステータス画面が自動で開く。


【管理権限:制限】

【外部介入:応答なし】


「……応答なし?」


 胸が、ざわつく。


 翌日、街の外で小規模な魔物騒ぎが起きた。


 本来なら、運営補正で即座に難易度調整が入るはず。

 だが、今回は違った。


「数が……多い!」


「増援、来ないのか!?」


 ミナは、前に出なかった。


 冒険者たちは、自分たちで判断し、退路を切り開く。

 負傷者は出たが、致命傷はない。


 戦闘後、誰かが呟いた。


「……これ、昔みたいだな」


 ミナは、その言葉に引っかかった。


 昔。

 管理が今ほど強くなかった頃。


 その夜、ようやく運営者が現れた。


 だが、姿が不安定だ。


「……遅れて、すみません」


「何が起きてるんですか」


 ミナの問いに、運営者は即答できなかった。


「管理権限が、段階的に失われています」


「……切られてる?」


「いいえ。

 “拒否されています”」


 ミナは息を呑む。


「世界が、管理を受け付けなくなっている」


 それは、想定外の進化だった。


「……私のせい?」


「直接ではありません」


 運営者は言う。


「あなたが示した“自律”が、

 世界全体に伝播した」


 沈黙。


「管理されない世界は、

 自由であると同時に、残酷です」


「……でも」


 ミナは、ゆっくり口を開いた。


「誰かに決められるより、

 自分で間違えた方が、

 まだマシだと思います」


 運営者は、何も言わなかった。


 別れ際、最後に告げる。


「近いうちに、

 私たちは完全に介入できなくなるでしょう」


「……その時、私は?」


「あなたも、ただの住人になります」


 ミナは、少し笑った。


「……初心者に、戻れるんですね」


 世界は、管理されない方向へ進んでいる。


 それは、終わりではない。


 ――本当の意味での、始まりだった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ふらっと立ち寄ってもらえるだけでも嬉しいです。

今日も楽しんでもらえたら何よりです。


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