第4話 信頼の再構築

 怪我人が出た翌日、ギルドは静かだった。


 怒号も、責任追及もない。

 ただ、重たい沈黙だけが漂っている。


 ミナは受付前で立ち止まった。


「……昨日の件」


 声をかけようとして、言葉に詰まる。


 そこに、あの時のリーダーが現れた。


「ミナ」


「……ごめんなさい」


 反射的に、頭を下げる。


 リーダーは少し驚いた顔をしてから、苦笑した。


「俺たちの方こそだ」


「……え?」


「無意識に、全部任せてた」


 それは、責めではなく事実だった。


「守られてると思うと、人は雑になる」


 リーダーは続ける。


「昨日は、久しぶりに“考えた”」


 ミナは、胸が締め付けられる。


「……怪我、しましたよね」


「ああ。でも、死んでない」


 それが重要だと、彼は言った。


 ギルドマスターが、会話に加わる。


「この街は、少し歪みかけていた」


「……私のせいです」


「一因だが、全部じゃない」


 ギルドマスターは言う。


「楽な道があれば、人は選ぶ。

 それが人間だ」


 掲示板に、新しい通達が貼られていた。


【特別立会依頼:改訂】

・立会人は戦闘介入を行わない

・作戦立案は冒険者主体

・失敗時の責任は共有


「……共有」


 その言葉に、ミナは目を留める。


「一人に背負わせないためのルールだ」


 ギルドマスターの声は、穏やかだった。


 数日後。


 同じメンバーで、再び依頼に出る。


「今回は、逃げ道三つ」

「罠、二段構え」


 議論が、自然に交わされる。


 ミナは後ろで聞いているだけ。


「……行けそう?」


「行ける」


 その返事に、以前の軽さはなかった。


 戦闘は、危なげなく終わった。


 誰も怪我をしない。

 誰も油断しない。


「……これで、いいんですね」


 ミナが呟くと、リーダーは笑った。


「ああ。

 “信頼”ってのは、

 任せきることじゃない」


 その夜。


 ステータス画面が静かに更新される。


【依存率:安定】

【役割:世界調整補助(正常)】


 胸の奥に、温かいものが広がる。


 最強として信じられるのではなく、

 一人の初心者として、隣にいる。


 それが、再構築された信頼だった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ふらっと立ち寄ってもらえるだけでも嬉しいです。

今日も楽しんでもらえたら何よりです。


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