第3話 守らない選択

 その依頼は、簡単なはずだった。


 街道沿いに出没する中型魔物の排除。

 過去に何度も成功している、慣れた案件。


「ミナがいるなら問題ないな」


 その一言で、ミナは決意を固めた。


「……今回、私は前に出ません」


 一瞬、空気が止まる。


「え?」


「立会人として同行しますが、

 戦闘にも補正にも、関与しません」


 ざわつきが広がる。


「冗談だろ?」

「今さら?」


 ミナは、ゆっくり首を振る。


「……守れないことも、あります」


 出発。


 戦闘が始まると、すぐに綻びが見えた。


 連携が噛み合わない。

 誰かが無理に前に出る。


「大丈夫だ、ミナが――」


「いません!」


 ミナは叫んだ。


「今は、いません!」


 魔物の一撃が、冒険者の肩をかすめる。

 血が飛ぶ。


 初めての、明確な負傷。


 空気が変わった。


「……退け!」


 リーダーの声が、震えている。


 誰もが気づいた。

 守られていない。


 必死の判断で、隊列を組み直す。

 退路を確保し、罠を使い、時間を稼ぐ。


 苦戦の末、魔物は倒れた。


 勝利。

 だが、誰も笑わない。


 帰還後、治療を受けながら、

 冒険者の一人が呟いた。


「……死ぬかと思った」


 ミナは、深く頭を下げた。


「……ごめんなさい」


「いや」


 リーダーが首を振る。


「俺たちが、甘えてた」


 沈黙の後、誰かが言う。


「……次から、ちゃんとやろう」


 その夜。


 ステータス画面が開く。


【自動調整:停止】

【依存率:低下】


 胸が、少しだけ軽くなる。


 だが、同時に痛みも残る。


 怪我をした人。

 恐怖を与えた現実。


「……守らないって、こんなに怖いんだ」


 運営者が現れる。


「判断は、正しかった」


「……でも、辛いです」


「それが、選択の重さです」


 ミナは、目を閉じる。


「……初心者には、まだ早い」


「いいえ」


 運営者は言った。


「初心者だからこそ、

 この重さを忘れない」


 ミナは、静かに頷いた。


 守らない選択。

 それは、逃げではない。


 世界を壊さないための、一歩だった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ふらっと立ち寄ってもらえるだけでも嬉しいです。

今日も楽しんでもらえたら何よりです。

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