第2話 依存というバグ

 ギルドの空気が、変わっていた。


「ミナが同行するなら、この作戦でいこう」

「最悪でも、どうにかなるしな」


 その言葉を聞いた瞬間、ミナの足が止まる。


「……“最悪でも”?」


 以前なら、慎重すぎるほど慎重だった冒険者たち。

 今は、どこか軽い。


 それが“依存”だと、ミナは理解していた。


 依頼は、渓谷の魔物討伐。

 本来なら複数ルートの退路を確保する案件だ。


「退路、ひとつで大丈夫ですか?」


 ミナが聞くと、リーダーは笑った。


「ミナがいるし」


 その一言が、胸に刺さる。


 戦闘が始まる。


 連携は雑。

 無茶な前進。

 誰も“死”を想定していない。


「……危ない!」


 ミナが声を上げる前に、

 冒険者の一人が魔物に弾き飛ばされた。


 岩壁に叩きつけられる――はずだった。


 だが、直前で止まる。


【自動補正:介入】

【被害無効化】


「……また」


 誰も気づかない。

 気づかないまま、戦闘は続く。


「ほら、問題なかっただろ?」


 勝利後、誰かが言った。


 ミナは、何も言えなかった。


 夜、運営者が現れる。


「想定通りです」


「……想定?」


「あなたが存在することで、

 人はリスク評価を下げる」


 淡々とした声。


「世界は、その歪みを補正し始めました」


「……それが、自動介入」


「はい。依存を前提にした安全装置です」


 ミナは震える。


「それ、ダメです。

 人が、考えなくなる」


「既に、なりつつあります」


 画面が表示される。


【依存率:上昇】

【判断放棄事例:増加】


「……私のせいだ」


「原因ではありますが、

 責任主体ではありません」


 運営者は言う。


「しかし、このままでは

 世界は“選択を失う”」


 ミナは、拳を握る。


「……じゃあ、どうすれば」


「一つだけ、方法があります」


 運営者が続ける。


「あなたが、“万能ではない”と示すことです」


「……失敗、するってこと?」


「はい。

 あなたが守れない状況を、

 意図的に作る」


 ミナは息を呑んだ。


「それ、誰かが傷つく」


「可能性はあります」


 沈黙。


「……初心者には、重すぎます」


「それでも」


 運営者は告げる。


「選択するのは、あなたです」


 ミナは、目を閉じた。


 守るために、守らない。

 救うために、任せる。


「……依存って、バグですね」


 小さく呟く。


 それは、修正が一番難しい種類のバグ。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ふらっと立ち寄ってもらえるだけでも嬉しいです。

今日も楽しんでもらえたら何よりです。

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