初心者だった私、ステータスバグで最強になる(続編)

塩塚 和人

第1話 世界が慣れてしまった日常

 ミナがそこにいることは、もう特別ではなかった。


「今日もミナが立ち会ってるらしい」

「じゃあ、大丈夫だな」


 そんな会話が、ギルドでは普通に交わされる。


 それが意味することを、ミナは理解していた。


「……慣れ、だよね」


 依頼現場。

 魔物の群れを前にしても、冒険者たちの表情は落ち着いている。


 逃げ道の確認も、連携も、以前よりずっと丁寧だ。

 ――だが、どこかで“最悪は起きない”という前提が滲んでいた。


 ミナは、一歩下がった位置で見守る。


「今日は、出番なさそう」


 そう呟いた瞬間、違和感が走った。


 ステータス画面が、勝手に開く。


【警告】

【世界安定度:低下】

【原因:依存率上昇】


「……え?」


 魔物は、突然動きを変えた。

 明らかに、戦術的ではない動き。


「なんだ、あれ……?」


 冒険者の一人が言う。


 まるで、無理に“危険”を作り出しているかのような挙動。


 次の瞬間。


 ――魔物が、消えた。


 ミナは触れていない。

 見てもいない。


「……今、何が起きた?」


 周囲がざわつく中、ミナだけが青ざめていた。


【自動調整:発動】

【介入主体:世界】


「……世界が、勝手に」


 自分が“重し”として組み込まれた結果、

 世界そのものが、ミナを前提に補正を始めている。


 運営者の言葉が、脳裏をよぎる。


――「あなたが存在することを前提に、再設計します」


「……これ、ダメなやつだ」


 人が考えなくなり、

 危険を恐れなくなり、

 最後は、世界が“自動で解決する”。


 それは、破滅への近道だった。


 ミナは拳を握る。


「……初心者のままじゃ、止められない」


 初めてだった。

 自分の力ではなく、

 **自分の在り方そのもの**に危機感を覚えたのは。


 第二部は、ここから始まる。


 ――“最強がいる世界”ではなく、

 ――“最強に慣れてしまった世界”との戦いが。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ふらっと立ち寄ってもらえるだけでも嬉しいです。

今日も楽しんでもらえたら何よりです。

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