失敗したことがない男(カクヨムコン11お題フェス:未知)

悠鬼よう子

『失敗したことがない男』

ある村に、狩りが大の苦手な男がおりましてね。


腕はないのに、なぜか自信だけは一人前。


ある日、村長が言いました。


「凍てついた森に未知の獣が出る。誰か行ってくれんか」


男、すっと手を挙げまして。


「はい、未知の世界は嫌いじゃありません」


村長、首をかしげて。


「お前、狩りはしたことあったか?」


男、胸を張って答える。


「ありません。でも失敗したこともありません」


 *    *    *

 

冷たい風がぴゅうと吹いてきます。


男、ブルッと震えながら森の奥へ足を踏み入れました。


「こういう時、未知の獣のほうから出てきてくれればいいんだけどなあ……」


枝がひとつ、パキッと鳴るたびにビクッ。

 

「ま、まあ大丈夫。未知の獣に挑むってのは、だいたい怖いもんさ」


それでも意地になって、弓を握る手は汗でツルツル。


凍てついた森に入り、男は震えながら弓を構えます。


「獲物よ、どこだ…未知の獣よ、出てこい…」


思い切って矢を放つと――


カーン!


木に当たって、跳ね返り、自分の足元に。


男、ぽつり。


「なるほど……未知ってのは、狙うと外れるもんですね」


*    *    *


そのまま男は村に戻りまして。 村長が聞きます。


「獲物はどうした?」


男、少し間を置いて。


「ええ……未知を知ろうとして、『道』を外しました」


――



これにて一席、おしまい。

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失敗したことがない男(カクヨムコン11お題フェス:未知) 悠鬼よう子 @majo_neco_ren

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