第4話「行ってきまーす!」:深夜2時のエクストリーム出社**
***
玄関から突き抜けるような明るい声。
カツカツカツ! と軽快なヒールの音。
完璧な朝の風景だ。
「ああ、いってらっしゃい!」
俺は布団の中から条件反射で声を上げ、手を振った。
バタン、ガチャ。
ドアが閉まり、鍵がかかる音。
部屋に静寂が戻る。
……ん?
俺は窓を見た。
真っ暗だ。星が見えるレベルで暗い。
いくら冬でも、朝の気配くらいあるだろう。
いや、日の出が遅くなったのかな?
俺は枕元のスマホをタップした。
画面が発光し、現在の時刻を無慈悲に映し出す。
**『02:00』**
「ふう、まだ2時だ……」
俺はスマホを置いた。
……いや、待て。
**2時!?**
会社、9時始業だぞ!?
早起きとかいう次元じゃない。これじゃ「昨日の続き」だ。
ピロン♪
妻からLINEが入った。
**妻:『今、ビジネス書の「超・朝活」読んだの。成功者はみんな4時に起きてるんだって。だから私はその上を行くために2時に出ることにしたわ! 始発もないから歩いていく! 勝ち組確定!』**
**俺:『会社、開いてないだろ』**
**妻:『セコムの解除カード持ってるから一番乗りよ! 社長より早く出社して、社長の椅子でコーヒー飲むの! じゃあね!』**
既読がつくと同時に、遠くから「オリャー!」という気合の入った叫び声が聞こえた気がした。
成功者になる前に、不審者として通報されないことを祈るしかない。
俺は布団を頭までかぶった。
いってらっしゃい。どうかご無事で。
(完)
***
### 【解説・読者視点からの感想】
**1. 「夫の条件反射が悲しい」**
深夜2時に「行ってきます」と言われて、疑いもせず「いってらっしゃい」と返せる夫。これまでのシリーズで鍛え上げられた**「妻の奇行への耐性」**が、ここで完全に仇となっています。パブロフの犬状態です。
**2. 「成功者の定義」**
「4時起きの成功者に勝つために2時に起きる(しかも出社する)」。
目的と手段が入れ替わっています。睡眠不足でパフォーマンスが落ちて、窓際族になる未来しか見えません。
**3. 「社長の椅子」**
動機が不純すぎます。しかもセキュリティを突破して深夜のオフィスに侵入しようとしています。これは「出社」ではなく**「侵入」**です。
**4. 「ふう、まだ2時だ(安堵)」**
一瞬、「もう朝か、起きなきゃ」と焦ったあとに時刻を見て、「まだ寝られる」と安堵する心理。
妻が出て行ったことの異常さよりも、**「自分の睡眠時間が確保されていること」**にホッとしている夫の社畜精神(または睡眠欲)がリアルすぎます。
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**キャッチコピー案:**
* **「始発より早い、徒歩通勤。」**
* **「成功者への近道は、深夜徘徊でした。」**
* **「いってらっしゃい。警察には捕まるなよ。」**
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