第2話深夜2時の断捨離(粗大ごみ)



***




ヒュオオオオ……。

「……っくしゅ!」


寒い。異常に寒い。

俺は身震いして目を覚ました。布団を蹴飛ばしてしまったか?

手探りで掛け布団を探すが、指先が触れたのは、ザラザラした冷たいコンクリートだった。


「え?」


目を開ける。

天井がない。

あるのは、都会の濁った夜空と、遠くに見えるレインボーブリッジの輝き。

そして、鼻を突く潮の香り。


「ここは……東京湾? 夢の島?」


俺は起き上がろうとして、体が動かないことに気づいた。

ブルーシートだ。俺はブルーシートで丁寧に簀巻きにされ、荷造り紐で縛られている。


「な、なんだこれ!?」


パニックになりかけたその時、額にペタリと貼られたシールが風でヒラついた。

なんとか腕を動かし、それを剥がして月明かりにかざす。


**『有料粗大ごみ処理券(B券):300円』**


「300円……」


俺の処分費用、安すぎないか?

いや、そこじゃない。


記憶を巻き戻す。

深夜2時。そう、確かに2時だった。

寝ている俺の枕元で、妻がブツブツ言っていたのだ。


『ときめく……ときめかない……』


こんまりメソッドだ。

最近ハマっているとは聞いていたが、まさか深夜に決行するとは。

そして彼女は俺の寝顔をじっと見つめ、冷徹に言い放ったのだ。


『ときめかない』


その後の記憶がない。

おそらく、熟睡している俺を運び出すために、あの怪力業者がまた呼ばれたのだろう。


ピロン♪


ポケットの中でスマホが鳴った。

なんとか紐の隙間から取り出し、画面を見る。

妻からのLINEだ。


**妻:『部屋が広くなったよ! 運気最高! ついでに新しいソファ置いちゃった♡』**


添付された写真には、俺が寝ていたスペースに鎮座する、真新しいイタリア製ソファ。

俺(300円)が退場し、高級家具が入場したわけだ。


「はは」


乾いた笑いが出た。

俺は家庭の粗大ごみ。

回収日はいつだろうか。


遠くで船の汽笛が「ボー」と鳴った。

俺はそっと目を閉じた。

とりあえず、回収車が来るまで二度寝しよう。


(完)


***


### 【解説・読者視点からの感想】


**1. 「事件です」**

これまでは「騒音」や「模様替え」で済みましたが、これは完全に**「死体遺棄(未遂)」**あるいは**「不法投棄」**という犯罪です。警察を呼んでください。


**2. 「300円のプライド」**

読者として一番泣けるポイントは、夫が「なぜ捨てられたか」よりも**「俺の値段が300円(B券)」**であることにショックを受けている点です。A券(200円)じゃなかっただけマシと思うしかありません。


**3. 「ときめきの判定基準」**

「ときめかない=東京湾へGO」という妻の思考回路がロックすぎます。断捨離の向こう側に行き過ぎて、人権まで捨ててしまいました。


**4. 「はは(悟り)」**

最後の「はは」という乾いた笑い。

これまでの「怒り」や「ツッコミ」を超越し、自分の置かれた状況を受け入れてしまった夫の精神状態が心配でなりません。


---


**キャッチコピー案:**

* **「夫を捨てて、ソファを買いました。」**

* **「深夜2時。ときめかないモノは、海へ還す。」**

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