第2話 攻め気

 宅配ピザってジャンクフードのくせに金持ちの食べ物だよな。美味いからギリギリ文句は言えないが、あと百円でも値上げしようものなら、俺は金輪際ピザを食わない。なんなら藁人形を使ってピザを呪ってやる。




「何頼んだの」




「テリヤキとペパロニのハーフ」




「は? どっちかマルゲリータにしてよ」




「悪かったな、マジシャンじゃなくて。というか、お前が何でもいいって言ったからこの二つにしたんだぞ? 言ってくれれば、どっちかをマルゲリータにしたのに」




「それくらい察してよ。私のお兄ちゃんでしょ」




「……ん?」




「テリヤキとペパロニって……どっちも味濃いじゃん」




「ピザは元々味が濃いだろ」




「ホント、妹への気遣いが出来てないね。お兄ちゃんって」




 間違いない。アイリが俺の事をお兄ちゃん呼びしてる。




 俺の記憶が確かなら、アイリは俺の事をお兄ちゃんと呼んだ事は一度も無い。呼ぶ時は「おい」か「あのさ」だったはず。それがどうして今になってお兄ちゃんなんてファンタジーな呼び方を?  




「なぁ、アイリ」




「なに? お兄ちゃん」




「うわ、本当に言ってる……」




「は? 何が?」




「いや、別に。あ、そうだ。昨日プリン買ってきたんだけどさ、アイリ食べる? 買ったはいいけど、冷静に考えたら、俺プリン嫌いだったんだよ」




「馬鹿じゃん。好き。じゃあ後で食べる」




 今、好きって言ったよな? 




 エロ本買う時、恥ずかしくて関係ない雑誌を挟むみたいな感じで、好きって言ったよな?




「私、テリヤキの方食べるから、そっち側はお兄ちゃんが全部食べて。辛いのは好きになれそうにないから。お兄ちゃんと違って」 




 頭がこんがらがってきた。今の言葉だけで、下手なアニメやゲームを超える考察要素がある。頼むから俺の考え過ぎなだけであってくれ。




「あ、このテリヤキ美味しい。結構好きかも。大好きなお兄ちゃんには劣るけど」




 ガンッ!




「どうしたの? 急にテーブルに突っ伏して。体調でも悪いの?」




「イヤ、キニシナイデ……」    




「なんで片言? まぁ、大丈夫なら早く食べてよね。お兄ちゃんが食べ終わるまでお風呂入れないじゃん」




「? 先に入ればいいじゃん」




「そしたらお兄ちゃんが来るまで待ってなきゃいけないじゃん」




「ん? え? ……あー、なるほどね」




 ガタンンッ!!




「どうして椅子から転げ落ちるのよ……」

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