第1話:始まりの日(4/6)~壊された日常~
普段より少しだけ気分が浮ついていた開斗にとっては、その日の下校時の外の空気は吸っていていつもより心地よく感じるものだった。今日はレンが駅近くのスタジオまで妹を迎えに行くという事なので1人での帰路だ。
(妹の凛奈ちゃん 、デビューがもうすぐなんだっけ)
開斗が親友から聞かされる話題となると、世界の最先端技術だの時事だのというお話と彼の生み出す発明品関連が半分、学生生活に関することが3割、残り2割が溺愛する妹がいかに可愛いかという事についてだったのだがここ最近ではその妹、凛奈(りな)の話を聞かされることが多いような気がする。アイドルのオーディションに受かって、レッスンも同僚との仲も順調で、とか我が事のように嬉しそうにしょっちゅう話していた。
(妹、か……いや、何考えてるんだ)
(いくらなんでも友達の妹の朗報で沈むのは人としておかしいよね……)
連想されるその事を思い出すと少し寂しく、胸が締め付けられるような気がする。とそこで気がついて頭を振ってネガティブな思考を振り払う。
大通り、雑踏の中を歩いていく。足音も、ざわめきも、普段と同じものだった。夢とか今朝の件とか色々あったけど、ほんの数時間も経てばやっぱりいつもと変わらない、そう思った瞬間の事だった。
「っ……?」
当たり前のように聞こえていた街中の音が、一瞬、消えた。あらゆる音から自分が切り離されたような感覚。―――けれど、その次の瞬間には音は戻ってきた。車の音も、人の話し声も、さっきまでと全く代わりが無いかのように。そして他の誰もそれに気付く様子も無い。本当に自分ひとりだけが音の無い世界に取り残されたようだ。
(やっぱり今朝頭打った影響かな)
そう思い直す。病院の検査では異常は見られなかったけど、後々になって見える形で出てくるものもあるとかないとかっていうのは良く聞く話だ。そんな事を考えていると―――
「接続切れた?」「スマホ繋がんない……」「あれ、俺とお前のキャリアって別のとこ使ってたよな?」「すみません、自分のスマホも回線が切れちゃったんですけど、そちらのキャリアはどこ使われてますか?自分は―――」
周りの人々から次々に声が上がる。スマホの回線が一斉に切断されたようだ。しかも、耳に入ってくる話の限りどこのキャリアの回線とかそういう事に関係は無いらしい、開斗も自分のスマホを取り出してみるがやはり圏外の表示だ。
(電波障害っていうやつ……え、じゃあさっきのは……)
あの「自分が切り離されたような感覚」、あれは錯覚や誤認ではなく本当に何かが起こっている―――?嫌な胸騒ぎと共に足を止めて、360度、周りを見回す。顔を上げて空を見る。見た限りでは異常は確認できない……そう思ったのは一瞬、すぐにその認識は覆されてしまう。
「え―――?」
今度は音ではない、視界一面が黒くなる。人や建物や者の輪郭はそのまま、ただ、色だけが、全てのものが真っ黒に染まったように見える。
『……来るぞ、あいつらが!』
聞こえてきたのはあの「声」。助けてくれたのは「彼」だったのは明白だったから、あの瞬間から開斗は「彼」の事を味方だと確信していた。
「あいつら…って?」
具体的な、何かよくないモノの事を彼は指し示しているようだった。嫌な胸騒ぎはどんどん強くなる。
「見た?見たよな?」「変になってた?」「なんか一瞬周りが真っ暗になってた」「お前も?いや周りの人らもそうっぽいし、俺らの目とかがおかしくなったんじゃないよね」
あの「声」は自分にしか聞こえていないみたいだけど、目の前で起こっていることは全員が目にしているようだ。皆が皆、困惑したように話しながらまわりをキョロキョロと見回している。
どこから、何が出てきて何が起こるのかもわからない。どうすべきかもわからずに、ただ目の前をじっと見つめる。
次の瞬間、眼前の「空間」がねじれた。空中に黒ずんだ染みとも穴とも付かないような何かが生まれて、急速に広がる。境目がうねり、捻られて、まくれ上がっていく。この光景を目の当たりにしている開斗にも、あるいは他の大勢の人々にも、「この空間『どこか』と繋がっている」と感じさせるのには十分な現象だろう。
「えっ、あれ何?」「何か出てくるぞ?」
人々のざわめきに重なるように、「繋がった向こう」から金属質の何かが伸びてくる。細長い構造物が関節のようなもので連結されている「脚」のようなものが4本同時に、そしてそこから繋がる胴体。4脚のロボットのような全容を露にしたそれは音もなく地に降り立った。
その下半身はおおよそ大型犬と同じくらいのサイズだがそれと同じくらいのボリュームの頑丈そうな筐体が上半身として重なり、異形めいた印象を感じさせる。最上部にはカメラやセンサーのようなパーツが突き出し、上半身の左右部には何かを射出しそうなテニスボール大の穴がそれぞれ2つずつ、合計4つ。そのさらに左右の外側と背面にも大きな張り出しが見受けられる。単純な機能性のみを極限まで追及したような印象を強く感じさせる姿だった。
最初の一機の出現に続けて、空間が捻れ、開いて、同様の黒い4脚ロボットが二機出現する。
周りの人々の反応はというと、電波が繋がらないにも関わらずに物珍しそうにカメラを向けているような物好きも少数はいる。ただし大半の人たちは、直前に起こった異変もあって大半が距離をとって、眉をひそめて、あるいはひそひそと話し合ったり、と警戒の反応を見せてはいた。しかし、この時点ではまだすぐに逃げるという差し迫った危機感にはいたってはいない、けれど―――
『……みんなに急いで逃げるよう叫ぶんだ!……駅と反対側に逃げろと!』
「え、いや……駅と反対ってなんで……」
『「今、駅の方向に同じ穴が出るのがみえた」とかでまかせでも何でも言ってとにかく駅じゃないほうにみんなを行かせてくれ!そっち側にも敵が来てる!』
切迫した「声」が開斗の頭に響く。状況の異常さは十分理解できている、それにこの謎の「声」は開斗にとって信用に値する者であると確信できていた。とは言え、指示の内容が飲み込めずにほんの一瞬言葉に詰まり。続けざまの説明を聞いて、なんとか思考を納得にまで持っていく。それに要した時間、数秒ほどで、ロボット達は次の決定的な行動に入っていた。
胸部の4つの穴から、空気を切り裂く音と共に鋭い杭が放たれる。一つの穴から一本、一機につき四本、合計12本。杭は道路・地面を、電柱を、建物の壁を穿ち、食いついた。同時に各機の側面のユニットがスライド、回転して展開。前に伸びた形へと変形してその先端から光の弾が放たれる。それも一発だけではなく途切れなく続けて。
雨のように飛ぶ閃光の塊が路面のアスファルトを、コンクリートの壁を砕き、街路樹をなぎ倒していく。そこでようやく人々は、これが恐ろしい脅威だと察する。
悲鳴が上がり、皆が一斉に逃げ惑う。
開斗が叫びをあげたのは、最初の悲鳴が放たれたのとほぼ同時だった。
「駅と反対側に逃げて!さっきあっちの方に同じ穴が見えた、駅らへんにも同じやつらがでてるかもしれない!みんな駅じゃないほうに逃げるんだ!」
駅の反対方向を指差しながら腹の底から絞り出すような声で叫ぶ。当初は皆散り散りに逃げ惑っていた群衆達は、最初に生まれた流れに釣られるように次第に開斗の指した方向になだれ込んでいった。
あの破壊者たちは無差別な破壊を続けているようだが、不幸中の幸いか人間を意図的に狙っているようではないようだ。このまま皆無事に逃げてくれれば……と開斗は願ったが、逃げる人々の中に辛そうに足を引きずっている人が見えた。顔を歪ませながら腕を抑えている人、焼け焦げた服の下から血を流している人も……
「怪我人が……」
易々と路面をえぐり、ガードレールを貫通するあの威力の光弾を受ければ人間の体を貫くなど造作もない。当たり所が悪ければ死んでいても不思議ではなくある意味怪我で済んでいるのは不幸中の幸いかもしれなかった。
辺りを見回すが倒れている者――死者の姿――は見えない。それでも、壊れていく街、傷ついていく人という光景に、開斗は意識が一瞬遠くなった。
今では記憶から薄れたあの風景が脳裏に蘇る。割れた窓、焦げ臭い臭い、砕けた天井、そして動かなくなった家族…視界さえもかすんで音も小さくなるような錯覚に囚われかけて―――
『落ち着け!ここはあそこじゃない。あの時とは違う、まだ誰も死んじゃいない』
叫びながらも、冷静そうなその「声」によって現実に引き戻された。
『今のこいつらの目的は人間の直接殺傷じゃない。巻き添えの犠牲は気にせずに撃ちまくってるが主目的ではないはずだ。なんとかこの場から逃げてさえくれれば…』
諭す声、でもどこか苦しそうな感情が声色から読み取れる。冷静に、客観的に振舞おうとしながらも情を捨てているわけではない、という「声」の人となりが伝わってきたような気がした。
(避難の導線はできた。後は僕も……)
みんなが向こうに逃げる流れはできた、となればもう自分がこうやって誘導する意味もないだろう、自分も逃げようと思ったその時……
(嘘……だろ……)
大通り沿いの商店の前あたり、膝を抱え込んで座り込んでいる女の子とその前に立ちふさがっている男の子の姿が視界の片隅に入った。中学生くらいと小学生くらいの姉弟、だろうか。
男の子が立ちふさがっている、と思えたのは、ちょうどその近く10mくらいの距離に破壊の根源であるロボットが一機、弾をバラ撒き続けているからだった。あのロボット達が意図的に人を狙っていなくてもどのタイミングで標的が彼女らに向かうか分からない。
動こうとした瞬間、乾いた音と金属音が響く。そちらに目を向けるとさらに少し離れた位置に制服の警官の姿。拳銃を構えてロボットに向けている。続けざまに、もう一発、二発、乾いた音、わずかに遅れて金属音が鳴り響く。発砲音の直後の金属音が、銃弾が弾かれて全く効いていないという残酷な事実を示していた。
ロボットが本体の向きはそのまま、カメラのユニットと2つの砲口を縦向きに180度回転、察して避けようと走る警官の方に向ける。
この状況なら警官を見捨てて子供達を背負って連れて行っても比較的安全に連れ出せるだろう。ただ、開斗はその発想は浮かべなかった。
(なんとか……なんとかできないか?この全員を助けられる方法を……)
『……言うと思ってたよ。……あの消火器だ。上に突き出てるあいつのセンサー、完全に潰すのは無理だが露出部に噴霧できれば感知機能の調整に一瞬時間を取られる、その隙にそこを何度か殴りつければ調整までの時間をもう少し引き延ばせるはずだ』
頭の中で声と会話しながら視界に映る消火器のところまで走る。幸か不幸か、目的のロボットのすぐ側だった。息を切らせながら、ただひたすらに地を蹴って駆ける。警官に向けて光の弾丸を放つ破壊の機械の側面、道路脇に設置されたボックスに到達すると同時にドアをあけ消火器を引っ張り出す。
視界の片隅に、警官が腕を抑えて膝を突いているのが見えた。やはり避けきれなかったようだ。焦燥感に動かされつつも、ロボットの斜め前に転がりながらスムーズにピンを抜いてホースを向け、突出した部分に向けて白い煙を噴射する。
一瞬、銃撃が止む。うまくかかったはずだ。煙が完全に晴れきるのを待つことなく、赤い本体を振り上げて上面の突出部を殴りつける。勢い任せに上から、さらに後ろにまで引いて思いっきりスイング、正面に叩きつけた。「声」のいう事が正しいならこれで少しは時間が稼げるはず。
消火器を放り投げて子供達のほうに駆け込む。男の子はこちらの事を分かってくれたようで、通してくれた。うずくまる女の子を抱きかかえ、立ち上がる。
「よく頑張ったね。お姉ちゃんは僕が運ぶから、君も一緒に逃げよう」
「うん、お兄ちゃん。ありがとう」
励ますように微笑みかけて彼に伝える。男の子も笑顔を浮かべて頷いてくれた。
『悪いがこれが精一杯だ。もしあの警官が自力で動けない状態ならこれ以上助けられる手はない。この子達を犠牲にしたくないならすぐに離れるんだ。彼を助けるためにお前はやれるだけはやったはずだ、見捨てたわけじゃない』
「……っ」
響く声、一瞬胸の奥が痛く感じる。だけど、彼の言うとおりだった。迷っている暇はない。
「子供らをつれて離れます!」
警官の方を向いて一言叫び、返事や状態の確認もせずに、さっき自分が指し示していた方向に走る。中学生くらいの女の子、まだ抱えられる重さとはいえ、人を抱えたまま全力で走った経験なんてない。
さっきみたいな素の全力疾走じゃなくて、しっかりと重心を確保、靴底で路面を捉えて、可能な限り速く、強く、前に進む。
後ろから聞こえる忙しない足音、とは言えこれは人間の足音だ、危険ではないはず。振り返ると先ほどの警官の姿。破れた制服の下、腕と足から血を流しているがまだ動けるようで、開斗は心底胸を撫で下ろした
「先ほどはありがとうございます!助かりました!」
「いえ……無事で良かったです。っ?、……」
追いついた彼に向けて応えた瞬間、足元のアスファルトが弾けた。思わず後ろを見ると遠方にあのロボットが二体。さっきの一体は一端停止しているようなので僚機の異常を感知して駆けつけたのだろう。
『次の曲がり角だ!一旦逃れれば追ってはこないはずだ』
まだ数十mはある。首筋を熱い何かが掠めたのを感じる。一瞬遅れて前方の電柱が砕ける。まずい、逃げ切れないかも……と嫌な予感を覚えた瞬間、今度は逆方向、ロボット達に向かうように、横を掠めて何かが放たれた。
そして起きる爆発。とは言え爆炎や爆風が巻き起こるわけでもなくロボット達のいる辺りにキラキラと輝く粉のような粉のようなものが舞っている。ロボットは破壊されたわけでもないのだが銃撃は止まったようだった。
「早く、こっちに!」
目的の曲がり角の向こうから声が響く、女性の声だ。人を抱えたままこの距離を走り続けるのはそうとうきつい、息を切らせながら、建物の列が途切れて開けた空間にようやく駆け込む事ができた。
頭が痛い、ひっきりなしに繰り返される呼吸音が自分でも聞こえる。足が限界を迎えたようで、腰が落ちてしまう。ちょっと視界が怪しい。軽いめまいを覚える。
なんとか。落とさないように、腕に抱えたその子を下してあげるのには成功した。
振り返ると、小さな体で一生懸命付いてきてくれた男の子と、傷つきながらも辿りついた警官の姿。二人とも無事のようで本当に良かった。
男の子は女の子のほうに駆け寄り、警官は自分の怪我も気にとめずにその二人の方をみてニコニコと笑っている。みんな助かって本当に良かった。
「そろそろいいですか?」
「あ、さっきの……」
背中から声がかかる、さっき助けてくれた人の声だ、振り返って顔を上げた。硬そうな印象のスーツを自然に着こなして、クールで"できそう"な、しっかりした印象を与える女性だ。それでいて本人の雰囲気からは必要以上の刺々しさや堅苦しさも感じさせない、柔らかさと硬さを両方感じるような人……みたいな印象を開斗は受けた。肩の辺りで切りそろえた髪、整ってはいるが険しくはない顔立ちも、そういう印象を強くさせた。
彼女に先導されるようにして、皆、曲がった先の奥へと進んでいく。
「なるほど……突然あたりの空間が割れ……たように見える現象が起こりそこからロボットが出現、佐神くんは駅の方角に同じ兆候を見たのでその場にいた人々をこちら側に誘導。あのロボット……いえ、敵と言った方が良いでしょうね。この子が敵の攻撃で足をやられて動けなかったので敵の注意を逸らそうと霧島巡査が発砲していたところ飛び込んできた佐神くんが消火器で敵の目をくらませて一緒にここまで逃げてきた、と」
一同は少し行った先の公園で腰を落ち着けていた。おあつらえ向きの木のテーブルを囲んで同じくの木の椅子に着席している。
警官の男性は青黎署の霧島健一巡査というらしい、よく見るとガタイが良く強面っぽい顔つきだが低姿勢で気さくな雰囲気の人だと、開斗には思えた。
そして今、皆の説明を聞いて状況を整理している大人の女性は警視庁、公安の御堂玲奈警部と名乗っていた。いくら助けられたとは言え街中であんなものを炸裂させた、というよりも所持していた件を霧島巡査に問い詰められ、警察手帳を見せて名乗った経緯だ。所属と階級を見た瞬間に霧島巡査は慌てふためき、今は縮こまっている。
公安ってあんなのを常備して歩いてる所なのか?とか少し疑問が浮かぶが開斗はひとまずはそこは思考から外す事にしていた。
「本当に面目ありません、私が及ばなかったばかりに民間人の彼に危険を強いてしまいました……」
「いえ、元々は僕が出すぎたことを、勝手にしちゃっただけですから……霧島さんは気にしないで下さい。」
御堂警部の前で霧島巡査と開斗はぺこぺこと頭を下げている。
「おまわりさんとお兄ちゃんが助けてくれたの、おこらないであげて……」
「あの、本当に勇樹の言う通りで……この人達が助けてくれなかったら私達今頃どうなってたか……寛大にお願いします。」
なんとか助ける事ができた姉弟――美紀と勇樹という名だ――は御堂警部に向けてとりなすようにあわあわとしている
「……いえ、こんな異常事態になれば誰だって混乱はするでしょうし、切羽詰って危険な判断に出ざるをえない事もあると思います。その中でお二人とも的確な行動を取られたかと。残念ながら私は本庁と連絡がつかずにロクな動きはできていませんでしたから……」
二人の気持ちをやわらげるように、穏やかな口調で微笑みかけながら御堂警部は言う。だが、現状を苦々しげに口にして視線を落とす。
「まだ携帯も無線も繋がりません。……警部、青黎署にまで来ていただければ中央と連絡は取れるかもしれないかと思われます」
「そう……ね、それにこの子達をここでこのままにもしておけない。電波も繋がらない、青黎署に出向いて一時保護できるかお願いしてみるつもりです。」
話は纏まってきたようだ。開斗から見ても、今のぐちゃぐちゃな状況ではこの子らを警察で保護してもらうのは順当に思える。美紀の足は動かないわけでもなかったがやはり歩くのは辛そうな様子だった。
「すみません、何から何まで迷惑かけちゃって」
「気にする事じゃないですよ、貴女達は何も悪いことをしたわけではないのだし。こういう時に貴女達を助けるのが我々の仕事なんですから」
手当てをしてもらった足を見ながら美紀は俯く、やはり自分のせいだと思っているようだ。御堂警部に励まされて、少し表情に明るさが戻る。
「青黎署までは…歩いて10分くらいだったっけ」
「自分の怪我の方は大したことなかったんで、美紀さんは私が背負っていきます。勇樹くんは一人で歩けるかな?」
かがんで、姉弟と視線を合わせる霧島巡査。姉のほうは少し遠慮がちに、弟のほうは元気良く頷く。
「では我々は署に向かいます。……佐神開斗くん、色々とありがとうございました。でもあまり無茶な事はしないで、自分の体を大切にしてください」
「はい……気をつけます。皆さんもお気をつけて」
「僕も……帰るか」
四人を見送った後、開斗も立ち上がる。駅のほうに出ていたという「敵」の事は気になる。もしかしてかなりの惨状になってるかもしれないという想像も頭にはよぎる。けど……
(ここで僕が行っても、多分できる事はないはずだ)
釘を指されたばかりだという事もあって、慎重に考える。さっきはあの場にいたからあの行動に出て、それが偶然にギリギリ上手くいったけれど……あっちでもあんな怪物が暴れまわってるのなら本当に出る幕はない。このままノコノコ出ていってもそれは無思慮な無謀であって勇気ではないだろう。
(自分で出来るだけの事、やれるだけやったはず……だよね)
『…確かにお前の言うとおりだ。……。……っ。だけどすまない!今まで散々無謀な動きを咎めてきてアレなんだが、頼む。今回ばかりはあそこに向かってくれ。どうしても必要なんだ』
「え―――?、そっ……か」
言い聞かせるように考えた。「声」もそれに同調するような事を言った――と思えば、次に言ってきた事は完全に予想外だった。一瞬だけ、言葉を喪うがふっと笑って歩き出す。さっきのあいつらに遭遇しないように少し回って、駅前に向かうルートだ。
「えっと、君には散々助けられたから、頼まれるなら行くしかないけど……でも何で?理由くらいは聞かせて欲しいな」
『星華が危ない!そして……助けられるのはお前だけなんだ!頼む!』
「え……っ、っ!?」
歩みは止めずに、でも怪訝な顔をして聞く。返ってきた言葉は完全に予想の外からのものだった。彼女があそこに――?血の気が引く。心臓がバクバク言うのを感じる。ひとりでに、足が全力で回りだす。気付けば全力で走り出していた。その最中で
今向かっている先、駅前の方角あたりから空に向かって登るように巨大な光が放たれる。虹色のまばゆい光。もう夕方なのに一瞬、真昼間になったと感じるくらいの眩い光だ。
「いったい何が……」
『く……始まってしまった』
走り続ける開斗の頭の中で、さらに焦燥を含んだ声が響いた
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ライトブリンガー~世界を滅ぼした悪堕ち変身ヒロインの元カレだった未来の僕が憑依してきたので二人の「僕」でハッピーエンドを目指します~ @west_heat
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