第1話:始まりの日(2/6)~眩しかった時間~
―――昼時前、黎陽高1-Bの教室。4時間目の授業中。
一昔前の学校ならば、教師が黒板にチョークを走らせる音が響いていたのだろう。電子黒板に置き換わった今ではタッチペンが表面を擦る静かな音だ。だがそんな微かな音が、今日の開斗にはやけに鮮明・明瞭に聞こえていた。
それだけではない、他の生徒達の囁き声、教科書のページをめくったりノートに筆記する音、教室を暖かい空気で満たす空調の唸る音も、何もかもはっきりと聞こえる。差し込む日差しのちょっとした暖かさも、ほんの僅かな埃のにおいさえ強く今は実感できる……ような気がする。
今朝の"あの感覚"が残っているせいなのか、あるいはよく言われてるような、痛みで感覚が鋭くなってるという話なのか……という事を考えた瞬間に、後頭部に鋭く重い疼きが走る。
「……っ」
ずきずきとして痛い。痛みの事を意識してしまったからだろう。頭を打って処置を受けてから2時間以上は経っているのに、包帯と絆創膏の下の鈍痛はそう簡単に緩んではくれないようだ。
(まあそれでも……うん、平和なんだよな)
その日のうちに、こうやって教室の椅子に座って授業を受けていられる程度の怪我で済んだのは不幸中の幸いだったろう。軽度の脳震盪という診断だったけれど、すぐ病院に運ばれて処置が早かったおかげもあるらしいと病院の先生は言っていた。
本当にありがたいことだ…とか考えていた所で、指名が飛んできた。
「では、佐神君。いま述べた箇所を訳してみてください。大丈夫……ですか?」
授業に集中せずに他の事を考えてたのが見透かされのか?と少しヒヤッとする。が、そうではないらしい。先生の様子を見る限り、咎めたり叱ったりするような様子は見られない、神妙な表情で穏やかそうな声色に思える。怪我から早々に復帰した生徒の容態を計って、心配しているのだろう、と開斗には感じられた。
「はい。えぇと……」
椅子を引いて立ち上がる。実の所は今の先生の話はよく聞いていなかった。そのはずなのに、焦りながらも思考を巡らせてみると、不思議と先生が何を言っていたのか―――授業の最初から今しがたまで、細かくはっきりと思い起こせる。やはり感覚が、頭が妙に冴えているのだろうか?
教科書の該当箇所に目を落とす、書かれてる英文を追い―――
「そうして、全ては終焉を迎えた。しかし終末は終結ではない、終わりとは、それ即ち次の幕開けであるのだ」
(……?え……今何言った?)
頭の中に浮かんだ和訳がすらすらと口をついて出る。しかもやけに大仰な表現で、詩でも歌い上げているかのように抑揚も抑えて滑らかな語り口。思考が追いついて、あまりにも気取りすぎだろうと、少し遅れて自分で戸惑いの念を覚えたくらいだ。
『おぉ……』
他の生徒達からは驚きや困惑の声が漏れた、視線が集中しているのを感じて気が重くなる。ちらり、と星華の席のほうに視線を向けると、やはりきょとんとした顔でこちらを見ている。なんだか頭よりも胃が痛く感じる。
「えぇ…まぁ、はい。少し独自性を感じる言い回しですが、単語も文意もしっかりとその通りです、大丈夫ですよ」
先生は一瞬難しそうな顔を浮かべるものの、少しのため息の後表情を緩めてそう言ってくれた。小さく安堵の息をついて着席する。
「よう、さっきはお見事だったぜ、ポエミスト先生。頭打って新しい世界でも垣間見たとか、そういうやつか?」
「むぅぅ……」
授業が終わって昼休み。喧騒に包まれる教室の中で、数少ない親友の木島(きじま)レンが隣にやってくるない開口一番に言い放った台詞がそれであった。笑いを堪えようともせず、にやにやした顔を開斗の方に向けている。
ライン越えの冗談に対し文句の一つでも言いたくなるな気はしなくもない。が、あの時わざわざ自分を背負って病院まで運んでくれた恩人に対して食って掛かるわけにもいかず、開斗は小さく唸る。
「けどまぁ、調子は悪くなさそうで本当良かったぜ。あんな体験しちまったんだ、ちょっと位は詩人みたいな気分になるのも無理もねーかなって」
「レン……」
少しだけ伸ばした髪を揺らしながら、冗談めかしたような笑みを含んでレンは言う。
やっぱり……本当に自分の事を気遣ってくれている。そんな彼の気遣いが、開斗にとっては本当にありがたい。
細身で長身、顔立ちだけなら一見すると少し軽そうにも見えるかもしれない容姿のこの友人の内面は良い意味でそれとは正反対だという印象だった。情に厚く、思い切りも良く、それでいて驚くくらいに気遣いも細やかだ。彼のそんな所は自分にはない敬うべきところだと、開斗はそう思っていた。
「そう……だね、ちょっと色々と思う所はあったよ。」
一端言葉を切る。後頭部の鈍痛は少しは収まってきたようだ。日頃からそういう事を思っていないわけではなかったけれど、あんな事があった直後にこうやって教室で友と共に笑顔で過ごせているのは容易にはありえない幸運以外の何物でもないはずだ、開斗は今はそう確信している。
「みんながいい人ばかりで、それに助けられてて、僕のいるこの場所は……今のこの世界全体の中でも特別に幸せなんだって。そういう事は考えてた。」
普段よりも思い声でそう口にする。あの「声」や「夢」の事は流石に口にはしない。それに影響はされているかもしれないが、ただ、今の自分の正直な気持ちであるのは確かだと思っていた。
「まーな。世界には色々問題もあって、俺らのいるここはその中じゃ特別上澄みなんだろうが……。だが今に見てろよ、お前が生きてる間にはこの俺の天才的な技術力で全世界と全人類をその上澄みまでに引き上げてやるからよ」
「そっ……か……」
笑顔の彼から出てきた言葉。レンとの付き合いは長いわけではないけれど、それでも彼から度々聞かされていた理想だった。
「科学技術で全世界の問題を解決して全人類に明るい未来を」――なんて、高校生にもなってみると、少し行き過ぎた理想主義に聞こえる。あるいは小学生が言うような夢みたいだ、なんて当初は思っていた。だが、この親友は色々知った上で本気でそれを考えている、と今の開斗には実感できる。
技術者と研究者の両親の間に生まれた事による生来のものや育った環境もあるのだろう。日々探求や研究にのめりこんで、次々と発明品やロボットを作り続けている。
開斗が何度か実物を見せてもらったときは、自分と同年代のこの少年がここまでのものを?と、とても信じられなかった。実際動画配信に流してかなりの収入を得るほど評価も高いらしい。
それだけの知識や技術を有しながら驕る事もなく、学校の授業というものも疎かにはしない。理系科目は全部頭に入ってるはずなのに、教師の「教え方」や「噛み砕き方」に対して熱心に聞き入っている。だから多分―――常々言っている彼の理想は、本気で、そして現実的に考えているのだろう。
「ふぅ……」と嘆息して開斗は教室の中を見回す。この黎陽高は「かなり良い所の学校」だ。だから誰も彼もよくできた凄い人ばかりだ……と思う。
授業についていくのは精一杯でひぃひぃ言っている位の彼からみて、他の生徒達は勉強やら運動やら特別な技能やら色々と優れているだけじゃなくて、人柄もよくできていると思う機会がしょっちゅうだ。
(皆すごいんだよなぁ……)とぼんやりと考えながら、クラスメイトの面々を見回しさまようその視線の先が星華達のグループに偶然合ってしまう。(彼女らも……)という事を思った矢先に、連想して重大なことを思い出してしまった。
「あっ……」
「ん、どした?」
「まだ……お礼言ってなかった……。レンが運んでくれて、生徒会長が色々段取り付けてくれて、それで七海さんが病院まで走って説明してくれてたんだよね?」
「あー……ああ。うん、まぁ……うん。授業始まる間際だったし、んな時間なかったもんなー」
間の抜けたような顔でから出てきた間の抜けたような声を漏らす開斗に対してレンは怪訝な声を向けた。
次の言葉を聞いてどういう事か合点がいったはずだけど、どうにも歯切れが悪い。少し固まった声で返しながらレンは視線を逸らす。そんな様子に疑問を抱く様子もなく開斗は立ち上がった。
「すぅ……はぁ……」
目を閉じて、深呼吸。息を整える。何の事はない、助けてくれた級友の所ににありがとうを言いに行くだけだ。
とは言え男子一人が女子グループの所にお邪魔するというのは心理的なハードルが高い。クラスの中でもアイドル的存在の、そして開斗個人として壁を感じている星華に近づくのも気は引けた。
「よし、行こう」
腹を決める。随分と軽くなった後頭部の鈍痛が「この程度で済んだのはありがたい恩人達のお陰なんだぞ、早く行け」と後押ししてくれたようにも感じた。恐る恐る、足を進める。
教室の中心付近、やっぱりそこだけ空気が違って感じた。色とりどりのお弁当箱を広げて楽しく話しながら食事をしている。
大げさなくらいで身振り手振りを交えながら話していたり、上品に相槌を打ちながら時に突っ込みを入れたり、物静かそうにその間で小さく笑っていたり、華やかで明るい雰囲気はこちらにも伝わってくる。付近に一歩足を踏み入れただけで別空間に入ったようにも錯覚してしまう。
「お……おぉーっ」
その中の1人が元気そうな声を跳ねさせる。開放的な印象のセミロングの金髪に似つかわしく顔立ちも明るく活発そうだ。全身から元気の良さが伝わってくるような子、陽向(ひなた)あかりだ。ソーセージを頬張りながら開斗の事を指差している。
「ぐぅっ……」
開斗は一瞬全身が凍ったような気がした。分かっていても、おもむろに指差されて声上げられたら緊張はさらに強くなる。
「あかりさん、人を指差してそんな事を言ってしまうのはよくありませんわよ。佐神くんも驚いてらっしゃいます。ですが…噂をすれば、ですわね。」
嗜めるようにあかりに対して言うのは一条麗奈。透くように綺麗な黒髪と、一目見て印象に残るような品の良さそうな顔つきの子だ。名家の令嬢という事で有名で、一目するだけで開斗もそれは名ばかりではなく本物だ、と実感できる。
(う、うぅ……)
ちらり、と開斗が目線を送った先。星華は沈黙して窓を向いていた。意図的にこちらから視線を逸らしているのだろうか?心なしかお弁当を食べるペースが妙に速い気がする。あからさまのように無視された気がして……頭の物理的な鈍痛より精神的なショックで胸の内側が痛くなったように感じてしまう。
そして目的はそのうちの最後の一人。そちらを向いてから、再度呼吸を整える。
「あのっ……七海、さん。少し……いいかな?」
物静かそうなおかっぱの少女、七海澪里(ななみみおり)に向けてできるだけ柔らかく声をかけた。
「ふぁっ!?は、ひゃいっ?」
身を強張らせていた澪里は盛大に取り乱した。声もおもいっきり噛んでしまって思わずお箸を取り落としそうになったくらいだ。あたふたと、視線をさまよわせて、見るからに動揺しまくっている。
「な……何でしょう……か?」
不安そうに開斗の顔を見つめながら、恐る恐る澪里は聞き返した。
周囲の視線を感じる。気付けば、教室の他の生徒たちもこちらに注目していた。あかりと麗奈も両方ともに、にこやかな笑みを浮かべて2人を見守っている。そして星華は、あからさまに目を逸らしているようで、時折ちらちらと横目でこちら側に目を向けている。視線が重くて潰されそうだと開斗は感じていた。
「ん……と、レンから聞いたんだけど、七海さんが先に病院に行って、いろいろ説明してくれたって……」
澪里はまだおずおずとした様子ながら顔を上げて開斗の目をまっすぐに見つめる。開斗の言葉に耳を傾ける。
「ありがとう。病院の先生も、診るのに助かったって言ってたし……僕が、こんなに早く戻れたのも、七海さんのおかげだと思う。感謝してる」
真剣な顔をして、言葉を急がず開斗は語気に力を込める。感情が篭もった声で、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
そんな表情から、言葉から、今まで接点のなかった目の前の彼の誠実さや真面目さという人となりに触れたような気がして。彼の事を見つめる視線に熱が篭もっていったのを澪里は確かに自覚していた。
「うん。佐神くんが無事で本当によかった、よ……」
澪里は、ぱちぱちとまばたきして――胸の奥から絞り出すみたいに声を出す。
「でも……違うの」
ほんのりと頬を赤く染めて、つぶやくように言葉を続ける。一瞬、ちらりと星華の方を見やってから再度開斗に向き直って言葉を加えた。少し硬く、真剣で、でもどこか申し訳なさそうにも見える。
「で、でもね、私はただ走って行って説明しただけだから。難しい判断をしてくれたのは会長さんで、運んでくれたのは木島くんで……」
「うん、それはレンから聞いてるよ」
彼女が普段は大人しい引っ込み思案な子だというのはこのやり取りでも察しはつくが、それにしたってどこか大げさな反応のように開斗は感じる。星華は窓の外に視線を貼り付けたまま、あかりと麗奈は固唾を呑んで見守っている。
「それに……すぐに佐神くんの側に来て、手当てをして、『病院に連れてく』って言ったのは――星華ちゃん、だったから……」
「えぇっ?なっ……」
星華の方に視線を移して、そして再度開斗の事をまっすぐに見つめながら澪里は言った。
開斗の思考は一瞬止まってしまう。無意識のうちに一歩か二歩後ずさってしまった。澪里と、横を向いたままの星華の顔を交互にみやる。「あ……」あぁと、呆然とした声を漏らした事にも気付かずに口が開いたままだった。
「あー……、佐神くんやっぱり知らなかったんだー。」
「あら…まぁ。あらあらまぁ。あらあらまぁまぁ……」
物珍しそうに開斗の方を見ながらため息をついて呆れたように言うあかり。かと思えば、麗奈の方は目を丸くして驚きの声をただ連呼し、口元に手を添えてみせる。
「星華ったらさ、血相変えて佐神くんのところまで走ってきて――凄かったんだよ?」
「恥ずかしながら、私たちはあまりのことにおろおろしていたばかりで……あの状況なのに即座には動けませんでしたの。至らず、申し訳なかったです」
続けて出てくるあかりの声は、からかい半分、でも確かに感心が混じっている。
麗奈はというと一変して神妙そうな顔で、静かな声で謝罪しながら厳かに頭を下げた。
「星……風露……さん?」
呆然としたままその名前を呼びそうになり、開斗はあわてて言葉を飲み込んだ。
「私も、怖くて頭の中がぐるぐるして何をしなきゃいけないのか分からなくなってたの。会長さんや木島くんのお陰もあるけど、最初に佐神くんを助けてくれたのは星華ちゃんだったから。だからまず星華ちゃんにお礼言って」
話を続けていく澪里の、気持ちの篭もった真剣な言葉を聞きながら星華の方を、不安そうに、どこか怯えたようにじっと見つめる。
「別に……私も、お礼を言われるようなことはしてないよ」
少しの沈黙の後、星華はようやく口を開いた。視線は窓の外を見つめたまま。
「よく考えずに、『そこの病院に!』ってやかましく喚いちゃってただけ。実際にちゃんと考えて動いてくれたのは、霧島会長だと思う。貴方を運んでくれたのは木島くんだったし、澪里もちゃんと自分のできる事を考えて貴方を助けた。私は……ただ動いただけで、実質、何もしてなかったみたいなもの。手当てだって、私がやっていなくてもすぐに会長か木島くんがもっと手際よくやってくれていたはずだよ」
少し早口気味、諦観や冷たさの混じった硬い声色だった。誰かを責めるとかじゃなくて、言葉の刃を自分に突き立てているような、そんな悔しさやいたたまれなさのような感情を感じる。
「……だから、私のことは言わないでおいてって、木島くんにも口止めしておいたの」
「つっ……、けど……」
一瞬、言葉に詰まる。他の誰かを責めているわけでもないのに、それでも彼女からの強い圧を感じるような気がした。しかしそれ以上は気圧される事もなく、逆に一歩前に出て口を開く。
「それでも……風露さんがすぐに来てくれて助けてくれたのは事実なんだろう?それなら、結果的に意味があったとか無かったとか、そういう事で"星華ちゃん"のしてくれた事とか、気持ちとか無かったことにはしたくないんだ。僕自身は助けられたし嬉しかったって思ってる。これも僕にとって確かなんだ。」
「開斗……くん……」
まっすぐに、星華の事を見つめながら重く確かな口調で言葉を続ける。星華は初めてこちらを向いた。逃げられない距離で、目が合う。
(「今"星華ちゃん"って言ったよね」)
(「言いましたね……」)
邪魔しないように茶化さないように、小さな声でひそひそと話しながら、興味津々といった様子であかりも麗奈も2人に視線を注いでいる。
「……僕の言いたい事はそれだけだから。本当にありがとう、風露さん、七海さん。 あと日向さんと一条さんも、お昼の時間邪魔しちゃってごめん」
恥ずかしくなったのか、最後は半ばまくし立てるような早口で言った後に踵を返し、逃げるようにいそいそと開斗は自分の席にまで戻っていってしまった。
「佐神くん、かっこいい……」
戻っていく開斗の後ろ姿を見て、思わず澪里がそう呟く。頬はまだ仄かに赤く染まったまま表情は緩々で、声すらも緩い。完全に見蕩れてしまっているようだった
「ふーん。彼、なかなかいいんじゃないかな」
「……ですわね、今まであまり注目しておりませんでしたけど、とても良く出来た方だと思います」
あかりと麗奈も、それぞれ微笑ましそうに開斗の事を眺めながら話していたけど、そんな中で……
「……知ってるよ」
『えっ?』
いつの間にかまた窓の外を向きながら、硬く、強さを含んだ声で星華は言った。
他の3人は意表を突かれて、全員から同じような驚愕の声が上がってしまう。
「"開斗くん"が優しくて勇気があって素敵な人だって、かっこいいって、前からずっと知ってるから」
強さと思いの篭もった声でさらに続けて、言い切る。
『お……おぉぅ……』
全員、さっきまで惚けていた澪里でさえも、星華の放つ空気に圧倒されて小さく唸ることしかできなかった。
「きーじーまーくーんー?」
戻ってきた開斗は、顔をしかめて、不機嫌そうなトーンの声でわざとらしく「くん」付けで名前を伸ばして呼びながらレンと顔を突き合わせていた
「うわ何だよいきなりその圧?」
昼食のカレーパンを咀嚼し飲み込んでから、あんまりみない開斗の引きつった顔に対してレンは視線を逸らす。「何だよ」と言いながら、原因は分かっているようだった。
「風露さんのこと。言ってくれなかったのかなー?」
「いや、その……」
真顔で迫りながら、抑揚のかけた声で開斗は問い詰め、レンはさらに視線を泳がせた。そして、渋々といった感じで口を開き始める
「……悪かったよ。ただ、アレじゃん。口止めしてたことはもう聞いたんだろ?それで、あのときの星華ちゃん、結構思い詰めててさ。真剣な顔して『開斗くんには言わないで』って頼んできたもんだから……お前にゃ悪いけど、そこは彼女の意志を尊重しとくべきかなって思ったんだよ」
「……」
やっぱり目を合わせながら白状するのはバツが悪いのか、逸らしたまま、気の抜けたように話していく。対する開斗の方はというと、少しの沈黙。
「そっ……か。分かったよ、そういう事だったら仕方ないと思う。ありがと、レン」
「あ、あぁ……」
少し考え込んだ後、思いの他、開斗はあっさりと分かってくれたようだった。拍子抜けしたようなレンに軽く礼を言って立ち上がる。
「会長にもお礼を言ってなかったし、行ってくるよ」
「お、おい、昼飯どうすんだ?」
「ああ、うん。帰りに購買ででも買ってくるから」
軽く笑ってこの場を後にする開斗を見送りながら(開斗のやつ、怪我してるってのにいつもより元気出て調子良さそうだよな……)とレンの頭によぎる。
ついさっきまでとも少し様子が違う。
「やっぱり星華ちゃんと話して気分でも軽くなったのかねぇ……」
と苦笑しながら、しかしそんな親友を微笑ましく思うのだった。
この時、確かに開斗は今日に、そして明日に希望を抱いていた。だけど、その"明日"が来ることはなかった。
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