隣人

『おーい、ねるんじゃないぞえ。そろそろ起きんか。』と声がする。その声に、ジョンドゥは眼を覚ました。


『ぬあっ?なんだ?どこだ声の主は…?』あたりを探しても見当たらない。声だけが聞こえている。


『あんたのう、ちょっと真面目過ぎるんじゃないかえ?』と声は言う。しかし、未だ姿は見えない。


『こっちじゃこっち。こっちを見い。』と老齢の声は言う。が、どこか分からない。きょろきょろとジョンドゥはあたりを見回すが、姿は見えない。なんだ、幻聴か?


『仕方がないのお。よいしょっと。』と老齢は言い、なにやら動く気配がどこからかする。


『こっちじゃこっち!』と姿を現したのは、なんとジョンドゥの目の前である。しかし、このだだっ広いデジタルの筐体の中空に老齢は次元の狭間を縫って現れた。


『ナッっつ!!どどどどどうやってんだそれ!?』とジョンドゥは驚いた。なにせ、訳がわからんのである。突然中空からジジイが現れて、しかもその手は暖簾をさらりとかき上げるような何気ない動作なので、なお訳がわからない。


『はあ?知らんのか?お主。』と爺は言う。


『というかだれだよおめえ!びっくりさせんなよ!もお!』とジョンドゥは怒るが、これは年長者に対して失礼な文言だ。しかし爺は怒らない。


『ああ、わしはななしのごんべえだ。よろしくたのむぞい。』と爺は言った。


ジョンドゥとななしのごんべいの出会いはここから始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マルチバーサス YOUTHCAKE @tetatotutit94

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画