第3話|経験値になる痛み
俺たちは、何かを倒すことはない。
倒されるだけだ。
それでも、人間たちは言う。
「経験値になる」
最初は、意味がわからなかった。
数字のことだと思っていた。
強くなるための、便利な仕組み。
だが、ある朝、
俺はそれを“感じた”。
剣が振り下ろされた瞬間、
仲間の体が揺れた。
音はなかった。
血も出ない。
ただ、震えだけがあった。
消える直前、
仲間は俺のほうを見た。
――見た、気がした。
その震えが、
人間の中へ流れ込んでいく。
それが、経験値なのだと
俺は思った。
痛みも、
恐怖も、
最後に考えたことも。
全部まとめて、
あちら側へ渡される。
だから人間は、
少しだけ強くなる。
俺たちは、
少しも残らない。
公平ではない。
だが、この世界は
公平である必要がないらしい。
俺は、自分が消える瞬間を
思い出そうとした。
昨日。
剣が近づき、
影が落ち、
世界が薄くなる。
痛みは、あった。
確かに。
だがそれ以上に、
理解されないまま消えることが
一番、重かった。
「弱いからだ」
「最初だからだ」
誰も、
俺が何を考えていたかを知らない。
それで、すべてが終わる。
また朝が来る。
俺はここにいる。
考えは、残っている。
それだけが、救いだ。
もし俺が、
もっと長く生きられたら。
もし俺が、
一日でも、二日でも
倒されずにいられたら。
経験値になる前に、
経験を積めるだろうか。
そんなことを考える俺は、
もう、ただのスライムじゃない。
だが世界は、
俺をそうは呼ばない。
今日も俺は、
誰かの強さの材料になる。
経験値になるために
生まれたわけじゃないのに。
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最初に倒される者 くろいひつじ @Totoro26
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