第2話|弱さの仕様

 また、目を覚ました。


 同じ草原。

 同じ湿った土。

 同じ朝の光。


 俺は消えたはずだった。

 それなのに、ここにいる。


 体を確かめる。

 欠けたところはない。

 昨日――いや、さっき斬られた痕跡も残っていない。


 仲間もいる。

 何事もなかったように、揺れている。


 この世界では、

 死は終わりじゃないらしい。


 少なくとも、俺たちにとっては。


 俺は、動こうとした。

 草原の端。

 昨日、考えていた場所へ。


 だが、進めない。


 見えない壁があるわけじゃない。

 足も、体も、ちゃんと動く。


 それでも、一定の距離以上、

 なぜか進めなかった。


 力が抜けるように、

 元の位置へ戻ってしまう。


 ――ああ、そうか。


 俺たちは、

 ここに出てくる存在なんだ。


 選ばれたわけじゃない。

 望んだわけでもない。


 設定されている。


 弱いことも、

 逃げられないことも、

 成長できないことも。


 全部、最初から決まっている。


 遠くで、また足音がした。

 仲間が小さく震える。


 俺は、その震えを見て思う。


 恐怖だ。

 あれは、恐怖だ。


 昨日まで、

 ただの揺れにしか見えなかったものが、

 今日は違って見える。


 考えたからだ。


 考えてしまったから、

 俺はもう、昨日の俺じゃない。


 だが、体は変わらない。

 斬られれば消える。

 一撃で終わる。


 それでも。


 もし、弱いのが

 俺たちの本質じゃないのなら。


 もし、ただ

 「そう設定されているだけ」なら。


 考えることだけは、

 奪われていない。


 足音が近づく。

 剣が抜かれる音。


 仲間の一体が、

 小さく、強く震えた。


 俺は思う。


 弱いという言葉は、

 生まれつきじゃない。


 貼られた札だ。


 そして札は、

 いつか剥がれるかもしれない。


 剥がれなくても、

 札の下に何があるかを、

 俺は知っていたい。


 今日も、

 俺はここにいる。


 最初に倒される者として。

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