第14話 地下水路の歓迎会
夜明け前。
翔吾は紅蓮の背を撫でた。
「留守番、頼むぞ」
紅蓮が不満そうに蒸気を噴いた。
だが、今回は派手に突っ込むわけにはいかない。
「潜入ルートの確認です」
ナビ子が空中に地図を表示した。
「城の地下に蒸気炉があります。そこに至るには、この地下水路を通るのが最短です」
「水路か。狭そうだな」
「ガルドさんの情報では、警備は手薄とのことです」
ガルドが頷いた。
「水路は古い設備だ。今は使われてない。だが、城の地下には繋がってる」
「よし」
翔吾は仲間を見回した。
ゴブタ、グロウガ、ガルド。そしてナビ子。
「グロウガ、お前は領地の守りだ」
「了解だ、ヘッド」
グロウガが拳を胸に当てた。
「ゴブタ、お前は俺と来い」
「おう、兄貴!」
「ガルド、案内頼む」
「任せろ」
翔吾はポケットのスパナを確認した。
熱い。準備は整った。
「行くぞ」
地下水路は、予想以上に広かった。
天井からパイプが這い、錆びた金属の匂いが漂う。
足元には浅い水が流れていた。蒸気が時折噴き出し、視界を遮る。
「静かだな」
「警備がいないのは助かりますが」
ナビ子の声が緊張していた。
「逆に不気味です」
「考えすぎだ」
翔吾は先を急いだ。
ガルドが横に並ぶ。
「この先を右に曲がれば、城の地下に出る」
「よし」
ゴブタが鼻をひくつかせた。
「兄貴、人の匂いがする。たくさん」
「敵か?」
「分かんねぇ。でも、弱ってる匂いだ」
翔吾は眉をひそめた。
弱ってる匂い。つまり、兵士じゃない。
角を曲がった瞬間、翔吾は足を止めた。
目の前に、人がいた。
ボロ布を纏った痩せた男たち。十人以上。
その目は警戒に満ちていた。
「誰だ、お前ら」
先頭の男が声を上げた。
手には錆びたパイプを握っている。
「こっちの台詞だ」
翔吾が一歩前に出た。
「お前ら、何してる」
「見りゃ分かるだろ。隠れてんだ」
男の声が震えていた。
「総督の奴らに見つかったら、また連れ戻される。だからここに」
ナビ子が小声で囁いた。
「逃亡した労働者たちみたいですね」
翔吾は男たちを見渡した。
全員、骨と皮だけの体。目の下に隈。あの子供と同じだ。
「お前ら、腹減ってんな」
「は?」
「見りゃ分かる」
翔吾はポケットから干し肉を取り出した。
グロウガが持たせてくれた非常食だ。
「食え」
男たちが目を丸くした。
「なんで」
「腹減ってる奴を見ると、ほっとけねぇんだよ」
先頭の男が干し肉を受け取った。
その手が、震えていた。
「お前、何者だ」
「轟翔吾。敵じゃねぇ」
翔吾は男の目を見据えた。
「今は、それだけ分かってりゃいい」
男たちがざわめいた。
「総督を倒しに来たのか」
翔吾は答えなかった。
代わりに、干し肉を配り続けた。
沈黙が流れた。
そして、先頭の男が口を開いた。
「俺はジド。元は鍛冶職人だった」
「鍛冶?」
「総督に工房を潰されて、労働者にされた。だが、蒸気炉のことなら誰より詳しい」
ガルドが目を見開いた。
「お前、まさか城の蒸気炉を作った」
「俺だけじゃねぇ。ここにいる奴ら、みんな元技術者だ」
翔吾の目が光った。
『【鍛冶神ヘパイストス】: ほう、面白い展開だ』
『【深淵の暇人】: 仲間フラグきたwww』
「ジド」
「なんだ」
「お前ら、蒸気炉を改造できるか」
ジドの視線が、翔吾を射抜いた。
「改造だと?」
「ぶっ壊すんじゃねぇ。俺色に染めるんだ」
翔吾はスパナを取り出した。
「俺のスキルと、お前らの技術。合わせりゃ、とんでもねぇもんが作れる」
ジドがスパナを見つめた。
その目に、職人の光が宿った。
「そのスパナ、いい手入れだな」
「当たり前だ。相棒だからな」
「相棒か」
ジドが小さく笑った。
それは、技術者としての共感だった。
ジドが仲間を見回した。
全員が、頷いていた。
「いいだろう。案内してやる、蒸気炉まで」
『【果たし状】が届きました』
『差出人:【鍛冶神ヘパイストス】』
『内容:技術者たちと共に蒸気炉を改造せよ』
『報酬:鍛冶の加護・極、蒸気技術の奥義』
翔吾はジドに手を差し出した。
「よろしくな、ジド」
「ああ」
二人の手が、握り合った。
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