第13話 騎士の手土産
領地に戻ると、グロウガが出迎えた。
「ヘッド、どうだった」
「最悪だ」
翔吾は紅蓮から降りながら吐き捨てた。
「ガキまで働かせて、飯も満足に食わせてねぇ。ふざけた世界だ」
グロウガの目が険しくなった。
「そりゃ、シメなきゃならねぇな」
「おう」
翔吾はボロ屋敷の前に腰を下ろした。
ゴブタが水を持ってくる。
「で、どうすんだ、兄貴」
「決まってる。総督とかいう奴のところにカチコミだ」
ナビ子のホログラムにノイズが走った。
「ちょっと待ってください。敵の戦力も分からないのに突っ込むんですか」
「分かんなくても殴りゃ分かる」
「分かりません」
ナビ子がきっぱり否定した。
「蒸気都市には騎士団がいます。さっきの騎士が末席だとすれば、もっと強い奴がいるはずです」
「だから何だよ」
「情報がないと、守りたい人まで巻き込みます」
翔吾の眉が動いた。
守りたい人。あの痩せた子供たち。
舌打ちして、翔吾は頭を掻いた。
「じゃあどうすりゃいいんだよ」
「まず情報収集です。騎士団の規模、総督の居場所、警備体制」
「めんどくせぇ」
「必要なことです」
グロウガが一歩前に出た。
「ヘッド、偵察なら俺たちに任せろ。ゴブリンは人目につきにくい」
「おう、頼んでいいか」
「任された」
グロウガが頷いた瞬間、ゴブタが耳を立てた。
「兄貴、誰か来る」
荒野の向こうから、一人の人影が歩いてきた。
鎧を脱ぎ、平服姿になった男。
「またお前か」
翔吾が立ち上がった。
ガルドだった。三度目の来訪。
「何しに来た。今度は警告じゃねぇだろうな」
「違う」
ガルドは翔吾の前で立ち止まった。
鎧を脱いでいる。剣も持っていない。丸腰だ。
その目には、覚悟の色があった。
「借りを返しに来た」
「借り?」
「お前は俺を殺さなかった。紅蓮も、蒸気獣も直してくれた」
ガルドは懐から紙束を取り出した。
「これは、騎士団の配置図だ。総督の居城の見取り図もある」
翔吾の目が細くなった。
「お前、いいのか。裏切りになるぞ」
「裏切りじゃねぇ」
ガルドの声が低くなった。
「俺は騎士だ。民を守るのが仕事だ。だが総督は、民を虐げてる」
ガルドの拳が震えた。
「あいつが来てから、税は三倍になった。払えねぇ奴は労働者として徴用される。子供だろうが関係ねぇ」
「それを、お前は見てたのか」
「見てた。見てるしかなかった」
ガルドの声が掠れた。
「騎士は命令に従う。それが掟だ。だが、もう限界だ」
ナビ子が紙束を受け取った。
ホログラムの目が高速で動く。
「これは、かなり詳細ですね。警備の交代時間まで書いてある」
「俺が知ってる限りのことは全部書いた」
翔吾はガルドを見つめた。
こいつの目は、嘘をついてない。
「なんで俺たちに賭けた」
「あの時、お前が言っただろう」
ガルドが小さく笑った。
「全次元のテッペンを獲るって。あれを聞いて、思ったんだ。こいつなら、本当にやるかもしれないって」
『【知恵の女神アテナ】: 興味深い展開ですね』
『【軍神アレス】: 裏切り者か。だが、筋は通っている』
翔吾は手を差し出した。
「なら、お前もうちの舎弟だ」
「は?」
「借りを返すって言ったな。なら、最後まで付き合え」
ガルドが目を見開いた。
だが、すぐにその目が笑った。
「分かった。よろしく頼む、ヘッド」
握手を交わす。
ナビ子が紙束をめくりながら呟いた。
「翔吾さん、これを見てください」
「なんだ」
「総督の居城、地下に巨大な蒸気炉があります。これが都市全体のエネルギー源みたいですね」
翔吾の目が光った。
「つまり、そこをぶっ壊せば」
「都市機能が止まります。騎士団の蒸気獣も動けなくなる」
「いいじゃねぇか」
翔吾はニヤリと笑った。
「カチコミの目標、決まったな」
グロウガが拳を鳴らした。
ゴブタが尻尾を振った。
ガルドが深く頷いた。
「総督の名はヴェルナー。明後日、視察で城を離れる」
翔吾の笑みが深くなった。
「明後日か」
ポケットのスパナを取り出す。
金属が、熱を帯びていた。
「ガルド、一つ聞いていいか」
「なんだ」
「その蒸気炉、改造したらどうなる」
ガルドが目を丸くした。
ナビ子のホログラムがバチッと音を立てた。
「翔吾さん、まさか」
「ぶっ壊すより、俺色に染めた方が面白ぇだろ」
『【鍛冶神ヘパイストス】: ほう。都市丸ごと改造か』
『【深淵の暇人】: スケールでかすぎて草』
翔吾はスパナを握りしめた。
「明後日、カチコミだ」
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