第7話 地下室のエンジンは俺を待っていた
バラック完成の翌日。
「兄貴、こっち!」
ゴブタが屋敷の床板を引っ剥がしていた。
「おい、何やってんだ」
「穴、あった。下、続いてる」
翔吾は床を覗き込んだ。
確かに、石造りの階段が地下へ続いている。
「ナビ子、知ってたか」
ナビ子が眼鏡を押し上げた。
「いいえ。領地のデータベースにも記載がありませんでした」
「面白ぇじゃねぇか」
翔吾は階段を降り始めた。
ゴブタが先に飛び出す。ナビ子のホログラムが後を追う。
地下は広かった。
天井は高く、壁には配管が走っている。
そして中央に、それはあった。
「……なんだ、こりゃ」
巨大な機械だった。
金属の塊。パイプが絡み合い、歯車が並ぶ。
排気管のような筒が何本も突き出している。
翔吾の目が輝いた。
「エンジンか」
「正解です」
ナビ子の声が、少し緊張していた。
「これは次元駆動炉。通称、特攻エンジン」
「特攻エンジン?」
「この領地を、別の次元へ移動させるための動力源です」
翔吾は機械に近づいた。
手を伸ばす。指先が金属に触れた瞬間。
ドクン。
心臓が跳ねた。
「っ……!」
「翔吾さん!」
視界が白く染まる。
頭の中に、何かが流れ込んでくる。
構造が見える。この機械の全てが。
ピストン。シリンダー。燃焼室。
そして、その中心にある空洞。
「……魂の座、か」
翔吾は呟いた。
「分かるんですか」
「ああ。こいつは、俺を待ってた」
その時、空中に文字が浮かんだ。
『【果たし状】が届きました』
『差出人:【軍神アレス】』
「アレス?」
『内容:面白いものを見つけたな。だが、そいつを動かすのは簡単じゃない』
『条件:次元駆動炉を起動せよ』
『報酬:戦神の加護、次元航行の導き』
「起動条件は何だ」
ナビ子がデータを表示した。
「翔吾さんの魂とリンクさせる必要があります。そのためには……」
「そのためには」
「気合いです」
沈黙が落ちた。
「……は?」
「気合いです。マニュアルにそう書いてあります」
『【深淵の暇人】: 気合いwww』
『【軍神アレス】: 笑うな。戦士の魂は気合いで測るものだ』
『【知恵の女神アテナ】: 要するに、精神エネルギーの同調ですね。表現が野蛮なだけで』
翔吾はエンジンを見上げた。
でかい。無骨。だが、どこか愛おしい。
こいつは俺の相棒になる。そう確信した。
「やってやるよ」
「待ってください。リスクがあります」
ナビ子の声が鋭くなった。
「同調に失敗すると、魂が損傷する可能性が」
「で?」
「で、って……死ぬかもしれないんですよ」
翔吾はニヤリと笑った。
「俺は一回死んでんだ。二回目がなんだってんだ」
「このバカ!」
ナビ子のホログラムにノイズが走った。
「兄貴」
ゴブタが翔吾の袖を引いた。
「オレ、分かんねぇ。でも、兄貴がやるなら、オレは信じる」
「……おう」
翔吾はエンジンに手を当てた。
「いいか、聞けよ」
機械に語りかける。
「俺はお前のヘッドになる。お前は俺の相棒になる」
目を閉じる。意識を集中させる。
「だから……応えろ」
静寂。
そして。
ゴウン。
エンジンが震えた。
パイプに光が走る。歯車が回り始める。
排気管から、蒸気のようなものが噴き出した。
「動いた……?」
ナビ子が目を見開いた。
「同調率、上昇中。二十パーセント、三十パーセント……」
翔吾の額に汗が浮かぶ。
心臓がエンジンと同期している。
熱い。だが、心地いい。
「五十パーセント……安定しました」
翔吾は手を離した。
息が荒い。だが、笑っている。
「こいつ、動かせるぞ」
『果たし状:一部達成』
『【軍神アレス】: 五十か。まあ、初回にしては上出来だ』
『追加条件:同調率を百に上げ、次元移動を成功させよ』
「百か」
「今日は休んでください。無理をすると」
「分かってる」
翔吾はエンジンを見上げた。
「なあ、ナビ子」
「はい」
「こいつの名前、まだねぇんだろ」
「……ないですね」
翔吾は口元を緩めた。
「じゃあ、俺がつけてやる」
金属の塊が、静かに唸っている。
まるで生きているように。
「お前の名前は……【
『【鍛冶神ヘパイストス】: ほう。悪くないセンスだ』
『【深淵の暇人】:
地下室に、エンジンの鼓動が響いていた。
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