救済
花村先生が会話を引き取る。
「鈴木さん、カウンセラーの花村 灯といいます。よろしくお願いします。」
さすが、花村さんだ。
彼女は自然に言葉を紡ぎ、相手の心に届く形で導いていく。
僕は静かに見守る。
「鈴木さん、あなたはさっき『ごめんなさい』と繰り返していましたね。おそらく無意識に心からの声が出ていたのだと思います。
どうか、ご自宅に帰られても、あなたの気持ちを亡くなった赤ちゃんに届けてあげてください。
塩、お米、そして子供が好きそうなお菓子を添えてあげると喜ぶと思います。
御門先生がおっしゃってたように、産まれる前の子供は恨んだり怒ったりすることはありません。ただあなたからの愛情が欲しいだけなのです。
だから、これからしっかりと向き合って欲しいと思います。
そうすれば、いつかあなたの中で気持ちが変わったり、視界が少しクリアになったりとわずかに変化が起こるかもしれません。そうしたら、お寺で水子供養をお願いしてあげてください。」
「はい、はい、そうします。ありがとうございます…。」
鈴木さんの肩が、まだ小さく震えていた。
人は身勝手だ。生きてきた年数と比例するかのように、ずるい考えを身に纏っていく。
生きようとする命さえ、他人の都合で消されてしまう。
子供を授かり、この世に誕生させることが、どれほど奇跡的なことか。世間は忘れてしまっている。
動物は子孫を残す本能がある。ただ、人間だけはその本能を娯楽や快楽と勘違いしてしまう。
世の中には、どれほどの水子が溢れているのだろう。霊は、供養されなければ勝手に成仏できるものではない。
テレビでは連日のように、虐待やネグレクト、親が子を殺し、子が親を殺すといったニュースが報じられている。しかし、恐ろしい事件だけではない。
「うちの子たち、兄弟ゲンカが絶えなくて…」と悩む人も、実は水子の影響を受けているのだ。兄弟が仲違いをしているのは、知らない間に流産した子たちの兄弟がいると考えれば、少し納得がいくだろう。きっと、その子たちはこう言っているのだ。「僕もいるよ、気づいて」と。
鈴木さんがドアを開け、風の吹く中へ一歩を踏み出す後ろ姿を見送る。
パタン。
ドアが閉まり、クリニックは静寂に包まれた。
二人だけ残された空気は、まだ重たい。
「さてと。」
御門先生はそう言いながら、大きく手を一つ叩く。
「知ってる? なんで神社で柏手を打つか。
神様への感謝や祈願、挨拶の意味もあるけど、
同時に祓いや清めの意味もあるんだ。だから——」
パンッ。
「こうして、この空間も清められた。」
「お腹すいたね〜」
そう言いながら、御門先生はジーニーのところへ向かう。
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