ダーク・キリスト

読解秋夢

ダーク・キリスト(前)

「ザァァ」


冷たい風に煽られ、木々が音を立てる。

憧れていた街。

今見たらなんとも思わない。


『クリスマスなんて知らないから』


そう思っていたはずの私は何処へ行ったのだろうか。

私の心はずっと変わり続けている。





「おはよう」


今日はクリスマスだね、と続ける。

誰に話していたのだろう?


「そう。今日は教会でミサでもやるの?」


「ミサってなんだっけ?」


「よく分かんない。そもそもキリスト教で合ってるのかな」


意味のない会話。


「でもね。今日の儀式は絶対に出なきゃ駄目なんだって」


「なんで?」


「私たち13歳になる。それに孤児だもの」


「孤児だからって……なんか嫌だよ」


「でも駄目なの。だから今日の夜は絶対に外に出ないでね」


クリスマスなんて知らないし。

なんで儀式に出なきゃ行けないの。

今日は街に行きたかった。

そのために彼と準備してきたのに。


そのままなんとなく時間は過ぎてゆき、夜になった。

何やらの儀式は始められていく。

教会の中に灯されるキャンドルをぼんやりと見つめながら考える。

私、去年こんな儀式やったっけ?

もしかして13歳になるから?

それで、私は?

少しずつ思い出す。

好きな人が居た。

彼のことだ。

親友は2人。

私は孤児。

みんな孤児。

私はこの教会の外へ出たことがない。


「ねえ。街に行こうよ」


急に後ろから話しかけられ、肩を振るわせる。

それは彼だった。


「ま、街!?」


正直驚いた。

真面目な彼がそう言い出すとは。

いくら今まで準備してきたとはいえ…


「でも今日は外に出るなって言われてるよ?」


すると彼は、フッと笑い言う。


「でも今日は、絶対に街に行かないと。一年にたった一度しか無いんだから」


「でも来年がある」


少し反論してみる。


「今年と来年じゃ違う、今年は今年、来年は来年。今年しか無いものだって沢山あるはずだ」


彼は全く動じない。

でもそう。

今年でしか味わえないものがある。

感じれないものがある。


「お小遣いも沢山貯めたんだ。それに2人なら怖くない。だから、」



「街へ行こう?」


そう手を差し出す彼。

私はその手を力強く握った。


「うん」


「よし。それじゃあ。早くここを抜けよう」


「そうだね」


私たちは、並んで、教会の出口へと行く。


「待ちなさい!」


いつの間にか、後ろにシスターが立っていた。


「今日は街へ行ってはなりません。どこへ行くつもりですか?」


そうだ。

そう容易くはいかない。

どうしよう。

すると彼が、


「少しお腹が痛くなっちゃって。そこのベンチで外の空気吸って休みに行きたいんだけです」


「それなら良しとしましょう。ただし。この教会の敷地の外には出ないこと」


「はい」


彼がそう返事をすると、シスターは祭壇の方へと向かっていった。

出口と真反対の方へと。


「ありがとう」


小声でコソッと彼にいう。


「このくらい朝飯前だ」


それで2人で笑い合う。

少し怖いけど、街に行くのが楽しみだ。

扉を開け、外に出る。


「じゃあ、ささっと荷物とって行くか!」


彼の気合の入った声に、私は笑顔で頷いた。











__________________

怖くない?これからですよ

本番は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダーク・キリスト 読解秋夢 @11222

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画