第3話 愛と空

「ルビー……サンライト……」


 その姿を見たサファイアスカイは、呆然とその光を見ながら、まさに今誕生した者の名を呼んだ。


 だが、その隙を見逃す使い魔ではない。助走をつけてサファイアスカイを喰らおうと、勢い良く飛びかかる。


「──危ないっ!!」


 彼に到達する……すんでのところで、ルビーサンライトが大きく跳躍し、そのまま使い魔を蹴り飛ばす。使い魔は壁に激突すると、か弱い呻き声を1つ残し、項垂れてしまった。


「大丈夫!?」

「ああ……助かった。……お前は……」

「私? 私は……って!? なんかどさくさに紛れてすごいことしちゃった!? すっごく高く飛べたし、力が溢れて止まらないっていうか!?」


 サファイアスカイが問いかけると、ルビーサンライトはようやく現状に理解が追いつき、その場でアワアワし始める。……しかしすぐに、その両手で拳を作って。


「えぇい、後で全部ランに説明してもらうとして!!」

「いや、別に良いんだが急に全ての責任が俺に来たな」

「今はこいつら、やっつけちゃおう。私たち2人で!!」


 ねっ、とルビーサンライトはサファイアスカイを見つめる。サファイアスカイは太陽のような笑みを浮かべる彼女に思わず見惚れ、だが首を横に振って気を取り直した。


「……あぁ!」


 2人は正面を見据え、構える。同時に使い魔たちが勢い良く地を蹴った。


 サファイアスカイは杖を使って水技や氷技を放ち、ルビーサンライトは拳や脚を使って対処をしていく。だが──キリがない。倒しても倒しても、すぐに復活してまた襲い来るだけだ。


 サファイアスカイはルビーサンライトに視線を送る。何か言いたげなその瞳に、彼女はひとまず使い魔たちから距離を取り、彼の隣に着地した。


「あれ、すぐ復活して襲ってくるんだけど!? どうすれば良いの!?」

「大変ご尤もな意見だ。浄化技を使うしかない」

「浄化技?」

「ああ。俺の杖のように、コネクター……お前の場合はその指輪だな。それを変形させて、技を放つんだ」


 そう言われ、ルビーサンライトは左手にはめられた指輪を見つめた。赤く輝く宝石、ルビーが埋め込まれている。

 望めば、きっと応えてくれる。私の姿を変えてくれたように。


「俺がやる、と言いたいところだが……あいにく慣れない場所で慣れない技を使ったものだから、浄化技を出せるほど力が残っていない」

「えぇっ!? じゃあ、どうするの!?」

「この場にいるジュエル・コネクターは、俺とお前だけ。……後は分かるよな?」


 右手の人差し指で、差される。中指にはめられた指輪、その青色の宝石がキラリと光った。

 期待されている。ランに、助けたいと願った人に。


 よぉし、とルビーサンライトは決意する。その張り切りに応えるよう、宝石が微かに煌めいた。


「コネクト・チェンジ!」


 ルビーサンライトは叫ぶ。すると宝石から眩い光が弾け、それに驚き使い魔たちはその場で足踏みをする。それをいいことに、彼女はゆっくり思考した。


 どんなものに変化させよう。どうせなら、カッコいいものが良いよね? ランの隣でしっかり戦えるような、助けになれるような、そんな、私だけの──。


 手の中に、何かが生じる。ルビーサンライトは目を開き、それを握った。



「サンライト・レイピア!」



 細身で軽量、しかし上手く使えば確かに核を突く剣。持ち手と刀身の間には太陽を模した飾り、その中心にはルビーが埋め込まれていた。


「俺が援護をする。使い魔たちをどうにか一箇所にまとめるから、お前はそこを──思うがままに叩け」

「……分かった!!」


 サファイアスカイに言われるがまま、ルビーサンライトは駆け出す。これの使い方なんて知らない。でも──体が勝手に動く。


 襲い来る使い方たちをレイピアでいなす。斬るというより当てて叩いている、という感じだが、十分攻撃として通っているようだった。

 時折、刀身から光が溢れる。なんだかその時は、レイピアが本当に雲のように軽かった。


 ルビーサンライトは使い魔に攻撃をしつつ、彼らの逃げる方向を均一化していく。先程の言葉の通り、サファイアスカイもそれに合わせて技を放ち、誘導していっていた。


 やがて使い魔たちは、レンガの壁に追い詰められる。危機を悟った1匹が、再び壁の中に飛び込もうとするが。


「無駄だ、結界を張っている。絶対に逃さない」


 杖を構えながら、サファイアスカイがそう告げる。


 逃げ場がないことを理解したのだろう。使い魔たちはサファイアスカイを睨みつけ、好機を狙う。

 しかし彼は使い魔たちを見ることなく──見上げ、叫んだ。


「──行け! サンライト!」

「──分かったよ、スカイ!!」


 大きく飛び上がっていたルビーサンライトは、レイピアを逆手に持つ。するとその剣先から眩い光が溢れ、レイピアを包んでいった。

 それはまるで大きな矢、もしくは槍、もしくは彗星。


 ルビーサンライトは強く願う。こんな危ない生き物から、この町に住む人々を守ることを。これから来るであろう脅威に立ち向かう力を得ることを。そして何より。


 助けたいと強く願った、彼の期待に応えることを!!



「ジュエル・コネクト!! ──スポット・サンライト・ラインッ!!!!」



 ルビーサンライトは光を纏ったレイピアを投げる。それは真っ直ぐ、使い魔たちが集まる中心に刺さり──爆ぜた。


 ルビーサンライトはサファイアスカイの隣に降り立つ。それと同時、指輪が彼女の左手中指に戻り、目の前の煙も消え失せる。……倒れた使い魔たちが、光の粒子となって消えていった。


「……終わった、の?」

「ああ。ひとまず脅威は去った」


 彼女が呆けた声で尋ねると、彼がぶっきらぼうにそう答える。そして2人の変身が解かれ、元の姿に戻った。


 ルビーサンライト──ルアは全身から力が抜け、その場に座り込む。サファイアスカイ──ランはその姿を見て、跪くようにしゃがみ込んだ。


「……巻き込んでしまってすまなかった。怖くはなかったか?」

「こ、怖かったよ!! 怖いに決まってるでしょあんなの!!」


 思わずルアは大声で言い返す。ランは肩を震わせ、すまん、と一言。

 だがルアはすぐに言葉を続けた。


「……私、ランの助けになった?」


 ランは始め、その言葉の意味が分からなかった。少しの間ルアの顔を見つめ、彼女は少しだけ顔を赤くする。しかし目はそらさない彼女に、ランは静かな声で返す。


「──ああ、とても」


 それを聞き、ルアはパァッ! と顔を輝かせた。思わぬ反応に、ランは再び肩を震わせる。


 だが、彼女のペースではいけないとランは咳払いをした。自分には願いがある。決して諦めてはならない、強い願い。


 どうやらこの少女は、ルビーのジュエル・コネクターであるらしい。説明せずともココロ宝石ジュエルを繋ぎ、姿を変えた。コネクターを変化させ、浄化技まで使ってしまった。自分だって安定して使えるようになるまで、数年掛かったのに。

 何より、感じる。強大な力を。


 彼女はどうやら、自分の助けになりたいと思っているようだし。


「改めて、俺はラン・ソリディアス」

「あ、えと、寺崎瑠愛だよ」

「……俺と一緒にジュエル・コネクターとして、俺の住む国、ジュレリアを助けてくれないか。──ルア」


 手を差し出す。ルアは目を見開くと……すぐに笑って、その手を握った。


「私で良ければ、もちろんだよ。──ラン!!」


 ランは笑う。繋がれた右手と左手、中指では青と赤の宝石の光が輝き、絡み、煌めいていた。

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ココロ⇔ジュエル・コネクト!!【短編版】 秋野凛花 @rin_kariN2

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