継承される魂、そして本場へ


台湾の夜空を貫くサーチライトの下、ライブは絶頂を迎えていた。


先攻のエターナルプリズムが披露したのは、もはや宗教的な儀式とも言える完璧なステージだった。数万人の観客が一つになり、彼らの歌う「希望」に涙し、拳を突き上げる。会場の空気は完全にレジェンドたちの支配下にあった。


「……行くぞ。俺たちが、この『綺麗で正しい世界』をぶち壊す」


荒崎の号令と共に、セカレジがステージへ飛び出した。


一曲目から不破のベースが唸りを上げる。リハーサルでの覚醒は本物だった。不破のベースはもはやリズムを支えるだけの道具ではなく、観客の心臓を直接掴み、揺さぶる「凶器」へと変貌していた。

その重低音の嵐の中、荒崎と桑田のデュエットが炸裂する。


荒崎の破壊的な声と、桑田の突き抜けるようなハイトーン。二人の声が重なり、ぶつかり合うたびに、会場の空気は「希望」から「熱狂」という名の混沌へと書き換えられていった。


「神様たちの後で、俺たちが地獄を見せてやるよ!」


荒崎の咆哮と共に、台湾のスタジアムはかつてないほどの激震に見舞われた。


ステージ裏の儀式


ライブ終了後。全身から湯気を立ち上げ、脱力して楽屋へ戻る四人の前に、エターナルプリズムの二人が待っていた。


「……素晴らしいライブだった。少年たち。自分たちの信じる音を、一切曲げずに叩きつけたな」


リーダーの男が、静かな、しかし重みのある声で語りかける。


そして、彼は懐から古びた、しかし手入れの行き届いた一本のシルバーストラップを取り出した。


「これは、僕たちがデビュー当時、憧れの先輩から譲り受けたものだ。……『次に世界を揺らす奴が現れたら渡してくれ』と預かっていた。荒崎、君が持っておけ」


「……俺たちが、それを受け取る資格があるってのかよ」


荒崎が珍しく戸惑いの表情を見せる。


「資格を決めるのは僕たちじゃない。今日の観客の顔だ。……君たちは、僕たちが守ってきたこの業界の、その先を見せてくれるはずだ」


荒崎はその銀色のストラップを、重い勲章を受け取るようにして受け取った。不破は憧れのレジェンドからのその計らいに、目元を熱くして俯いていた。

次なる戦場は、ロックの聖地


その興奮も冷めやらぬ中、舞元が足早に近づいてきた。その手には、一枚の英語で書かれた封筒が握られている。


「浸ってる暇はないわよ。……台湾を震撼させたあなたたちの噂、ついに『あそこ』まで届いたわ」


舞元が差し出したのは、ロックの本場、イギリスで開催される世界最大級のロックフェスティバルへの招待状だった。


「イギリス……本場の、ロンドンか」


桑田が唾を飲み込む。これまでとは次元が違う。そこは、世界中のトップバンドが鎬を削り、無名な新人であればペットボトルを投げつけられ、一瞬で消される「戦場」だ。


「……いいじゃねえか。俺たちの『ノイズ』が、本場でどこまで通用するか。……おい、不破。もうビビってねえだろうな?」


荒崎の問いに、不破は不敵に笑い、ベースを背負い直した。


「当たり前だろ。神様に認められたんだ、次は本場の化け物どもを跪かせる番だ」


セカレジの四人は、台湾の湿った風を切り裂き、次なる戦いの地――霧の都、ロンドンへと目を向けた。

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