逆転のデッドヒート
ライブ会場は、前回を遥かに凌ぐ熱狂に包まれていた。集まった観客は前回の二倍以上。今日はセカレジとブルーバード、二つの異なる正義が「バラード」という一本の細い橋の上で激突する。勝敗は、演奏終了後の観客アンケート。最後に巨大モニターに映し出されるパーセンテージが、どちらかの未来を断ち切る残酷なルールだ。
「で、学校で良い刺激は貰ったの?」
開演直前のバックステージ。舞元がワイングラスを片手に、ニヤリと笑いながら荒崎に問いかけた。荒崎は壁に背を預け、根本から叩き込まれた「魂の共鳴」を頭の中で反芻している。
「刺激なんて言葉じゃ表せない経験をしたさ。……舞元、ライブの順番を変える」
「あら、どういう風に?」
「俺たちが先攻の予定だったが、向こうに伝えてくれ。『俺たちがトリを請け負ってやるから、せいぜい客を沸かせて来い』ってな」
荒崎はそう言い残すと、メンバーと共に無機質な防音室へと籠もった。
嵐の前の接触
その伝言を聞いたブルーバードのリーダー、坂木は激昂した。
彼は荒崎たちの籠もる部屋へ文字通り「飛んで」くると、ドアを乱暴に蹴り開けた。
「どういう了見だ、荒崎! お前の都合で順番を変えるなんて、何を考えている!」
坂木が荒崎の胸ぐらを掴み、鋭い視線で睨みつける。背後で桑田が立ち上がりかけるが、荒崎はそれを手で制し、坂木の目を真っ直ぐに見返した。
「俺たちからのプレゼントだよ」
荒崎の声は、驚くほど静かだった。
「最初に印象に残りやすいスタートなんて要らねえ。俺が欲しいのは、いつだって最後に決定的な絶望を与える『後半』だけだ。それよりも……この順番じゃ不満か?」
「……なんだと?」
「お前らが先に完璧なバラードを歌い上げ、観客を『ブルーバード』の色に染め上げる。その完成された空気の中で、俺たちがすべてを奪い取る。……その方が、お前らにとっても最高の散り際だろ?」
挑発的な言葉。だが、荒崎の瞳には絶対的な自信――あの音楽室で「老兵」から受け取った、世界を震わせる力の断片が宿っていた。
坂木は掴んでいた手をゆっくりと離し、屈辱を飲み込むように目を細めた。
「……いいだろう。断ってももう遅いからな。僕たちが作り上げる完璧な『静寂』に、泥を塗れると思わないことだ」
坂木が部屋を飛び出していく。
その後ろ姿を見送りながら、田上がスティックを鳴らした。
「さて。王様のわがままで、ハードルが跳ね上がりましたね」
「わかってる。……不破、桑田、田上。俺たちのバラードで、あいつらの歌声を『記憶』から消し去るぞ」
荒崎の号令が、閉ざされた防音室の中で、鋭い刃のように光った。
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