奪取・ザ・ステージ
ステージ裏、黒い幕一枚を隔てた向こう側から、地鳴りのようなざわめきが聞こえてくる。
「セカレジ」という名は、既にSNSのトレンドを席巻していた。屋上から始まった彼らの「反逆」をこの目で見ようと、小さな特設ステージの前には、入り切らないほどの観客が詰めかけている。
「……おい、マジかよ。これ、全部俺らを見に来たのか?」
桑田がギターのストラップを握りしめ、青白い顔で幕の隙間を覗き込んだ。指先が目に見えて震えている。
「なにビビってんだよ。落ち着けバカ」
不破がベースのチューニングを無造作に終わらせ、鼻で笑った。だが、桑田は食ってかかる。
「だって仕方ねえだろ! あの数だぞ!? 学校の全校生徒より多いじゃねえか!」
「何言ってんだ」
荒崎の低く、鋭い声が二人の間に割って入った。荒崎は一切観客席を見ようともせず、ただ自分の拳を見つめている。
「隣の観客を丸ごと奪うんだ。あれだけの観客程度で満足してんじゃねーよ、桑田。……それより、田上。準備はできてるか?」
荒崎が視線を向けると、そこには既にドラムセットに鎮座した田上がいた。彼はスティックを片手で器用に回しながら、眼鏡の奥の瞳を冷徹に光らせる。
「いつでも。不破さんのハッキングに合わせて、一打目から最大出力(フルパワー)でいきます」
「……ギター」
荒崎が短く呼ぶ。桑田は心臓を跳ね上がらせ、裏返った声で応えた。
「だ、大丈夫! いける、いけるから!」
「ベース」
「モチ。……さっさと始めようぜ、退屈な世界が待ってる」
不破が不敵に口角を上げた。
荒崎が頷き、ゆっくりと幕の向こう側――光の渦へと歩き出す。
「……世界中に教えてやる。誰がこの時代の主役(キング)か」
反逆の産声
荒崎がステージに姿を現した瞬間、絶叫に近い歓声が会場を揺らした。
だが、荒崎はマイクを握ると、反対側の巨大なメインステージを一瞥し、親指をゆっくりと下へ向けた。
「おい、そっちの『お利口な音楽』に飽きてる奴ら!」
その声がスピーカーを通し、不破がジャックしたメインステージのシステムにも強制的に流れ込む。
メイン側の演奏がノイズに掻き消され、巨大なモニターにセカレジのロゴが浮かび上がる。数千人の観客が、驚きと共に「小さなステージ」へと一斉に首を巡らせた。
「今から、本当の自由の音を教えてやる。……かませ、田上!」
ドンッ!!
心臓を直接殴るような、田上の地響きのドラム。
それに重なる、桑田の覚醒した咆哮のようなギターリフ。
地を這う不破のベースが、聴衆の理性を根こそぎ奪い去っていく。
さっきまで震えていた桑田は、一音目を鳴らした瞬間に「怪物」へと変貌していた。
「WORLD RESISTANCE」のファーストライブ。
それは音楽の枠を超えた、既存の世界に対する最も美しく、最も暴力的な「椅子取りゲーム」の始まりだった。
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