玉座への侵略者
ライブが中盤に差し掛かった頃、当初の予測は音を立てて崩れ去った。
「小さいステージだから、ある程度で客足は止まる」――そう踏んでいた舞元の予想に反し、セカレジのステージ前は、もはや立錐の余地もないほどの人波で埋め尽くされていた。
「見てな、これが俺の音だ!」
間奏中、桑田がステージの端まで躍り出て、狂気じみたギターソロを叩きつける。
超高速のタッピングと、鼓膜を裂くようなチョーキング。その圧倒的な「個」のアピールに、隣のメインステージを眺めていた観客たちが吸い寄せられるように移動を開始する。
「……嘘でしょ。入り口を封鎖して! これ以上入ったら事故が起きるわ!」
舞元が無線で怒号を飛ばす。前列では熱狂のあまり失神する者が続出し、スタッフが必死に救出に当たっていた。もはやライブではない。それは、一種の暴動に近い「社会現象」の誕生だった。
「先輩」への引導
ライブは強制終了に近い形で幕を閉じた。
静まり返った舞台裏。メンバーが汗を拭いながら引き上げようとしたその時、背後から重厚な足音が響いた。
そこに立っていたのは、メインステージを飾っていた国内屈指のロックバンドや、チャートの常連である大物アーティストたちだった。彼らの顔には、自分たちのステージを「空っぽ」にされた屈辱と、それを上回るほどの戦慄が刻まれている。
「おい、待てよ」
大物バンドのボーカルが、荒崎を呼び止める。
荒崎は肩越しに冷たく振り返り、不遜な態度で言い放った。
「なんだよ。アンタたちの邪魔は何一つしてねえぜ。機材も壊してないしな」
「違う!……そうじゃない」
男は拳を握りしめ、絞り出すように言った。
「君たちほどの、これほどの実力者が……なぜあんな、隅っこの小さなステージに留まっているんだ! 侮辱しているのか!?」
その言葉に、荒崎はニヒルな笑みを浮かべ、ゆっくりと男に向き直った。
桑田や不破、田上も、当然のような顔で荒崎の背後に並ぶ。
「分かってねえなら、先に言っといてやるよ」
荒崎は、数万人を飲み込んだメインステージの空虚な残骸を指差した。
「俺たちは、アンタたちなんて目じゃねえんだ。……俺たちは、世界を取るために来てるんだよ」
その場にいた大人たちが、息を呑む。
「世界を目指すなら、大きなステージだろうが小さなステージだろうが、俺たちの戦場(ルール)は変わらねえ。どこに立ってようが、俺たちは目の前の奴らをハックして、奪い取るだけだ」
荒崎はそう言い捨てると、凍りついた「先輩」たちに背を向け、出口へと歩き出した。
「俺たちを認めるかどうかは勝手だが……足元を掬われないように、気をつけてお帰り下さい。――先輩方」
その言葉は、宣戦布告ですらなかった。
それは、既に終わった時代の王たちへ送る、冷ややかな弔辞だった。
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